南から日本へ渡ってきて葦原などで繁殖するオオヨシキリ。「ギョギョシ、ギョギョシ、ギョギョシ、ケチケシケシケシ」と、水郷などでよく特徴のある囀りを耳にする。葦の穂先に止まり日中も夜でも鳴き続ける。そんなオオヨシキリを写した下村の名作の一つ。
写真を見てふと、「えっ、月明かりで撮った?!」 月光の下で撮れるほど高感度の乾板が当時あるハズもない。どうしてこの1枚が撮れたのか? 下村に面と向って尋ねても答えは返ってこなかった。下村は逝き、ナゾのまま時が過ぎた。
山階鳥類研究所で下村資料の整理をしていた際、問題のオオヨシキリの乾板がみつかった。積年のナゾが解けた思いだった。下村は、囀るオオヨシキリをファインダーに捉えた最初から、作品の出来上がりイメージが頭にあったに違いない。作品を観る者の夢を壊さないよう、“月明かり”のオオヨシキリが何故撮れたのかは敢えて語らなかったのであろう。ナゾはナゾのままとして、下村の自然の詩を画面に表現したような芸術的生態写真を鑑賞しよう。