奄美大島にだけ棲むルリカケス。1935年、ルリカケスの撮影は下村にとって挑戦であった。
「北の鳥南の鳥」pp.170-176に悪戦苦闘の撮影状況が語られている。巣の前にセットされたカメラのシャッターは、離れて紐で引いて落とす作戦。だが、ルリカケスが棲む常緑広葉樹林はタダでさえ薄暗いのに、泣き出しそうな曇り空。斜面での撮影で足場が悪い。大型カメラが乗る危うい三脚を固定するのに、枝で補強する。悪条件は揃っていた。というより、撮影できる状況ではなかったのだ。
半ばやけっぱちで試みた撮影。シャッタースピードは15分の1秒。これで巣穴に飛び込む鳥を撮るというのだ。
それでも僅か2枚がなんとか見られる写真になった。その内の1枚が1935年に世界自然写真展に出展され、後に“Nature in the Wild”に優秀作品として掲載された。下村のやけっぱち撮影は報われた。
下村資料の中には、この巣のルリカケスのプリントで特大サイズのものがある(A3程の大きさ)。下村の作品への想いが伝わってくるようだ。
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