鳥類標識調査

仕事の実際と近年の成果

2018年12月5日掲載

カシラダカが絶滅する?

山階鳥研 副所長 尾崎清明

日本では冬に農耕地や草地などに普通に生息していたカシラダカは、近年、世界的な減少が指摘され、2016年にはIUCN(国際自然保護連合)の絶滅危惧種に指定されました。大陸に広く分布しているカシラダカのような小鳥が減少することはにわかに理解できませんが、長年継続して行われている鳥類標識調査の捕獲データの検討をもとにこの問題に取り組んでいる尾崎副所長に解説をしてもらいました。

山階鳥研ニュース」2018年11月号より

どんな鳥?

カシラダカ

写真1 カシラダカ(千葉県柏市、2018年3月)

「カシラダカ」という名前から、鷹の仲間を連想される読者もあるかも知れませんが、実はホオジロ科の小鳥です(写真1)。頭の上に小さな冠羽(かんう)があって、春先に枝の上でさえずるときや緊張すると、これを控えめに見せてくれます。つまり「頭高」。日本では冬鳥で、秋の渡り期や越冬期には群れを作って行動します。本州以南では里山や川原などで、数十から数百羽を超えるような大群もかつては見られました。

カシラダカは私が40年ほど毎年渡り鳥の標識調査を実施している、新潟県の福島潟鳥類観測ステーションで、もっとも親しんだ鳥の一種です。私は個人的にこの鳥が好きです。その理由は恐らく多くのバードウォッチャーとは少し異なっていて、手に持った時の小ぶりな感触と、活発な感じからです。

標識調査による捕獲数

カシラダカは、日本の標識調査で最も普通に捕獲されてきました。例えば、1980年には全国の捕獲総数約67,000羽のうち、カシラダカが最多で約19,000羽(総数の28%)でした。ところが、2015年には捕獲総数は12万羽余りと増加したにもかかわらず、カシラダカは約5,000羽(同4%)と35年前の実数で27%、総数に占める割合では1/7以下に激減しています。同時期おなじホオジロ科のアオジでは7,700から26,000羽、オオジュリンでは3,200から12,000羽と増えているのと比較すると、カシラダカのみがいかに減少傾向にあるかが判ります(山階鳥類研究所 2018)。

世界的な減少傾向

このカシラダカの減少が、日本だけではないことを私が認識したのは、ノルウェーからの報告でした(Dale & Hansen 2013)。それによると2008〜12年の間に82%もの減少が記録されています。そして、決定的となったのは、2015年秋スウェーデンからカシラダカの減少に関心のある研究者(Edenius 氏)が、福島潟鳥類観測ステーションを訪れ、共同研究を実施しながら情報交換を行った時です。彼の集めたスウェーデンやフィンランドの長期的なカシラダカの個体数減少の傾向は、私たちが日本で標識調査によって収集したデータと大変似通っていました。そして分析をすると北欧と東アジアの双方で、カシラダカの個体数はこの30年間で75~87%も減少しているという驚きの結果となりました(図1)。これは翌年に論文で発表され(Edenius et al. 2016)、そのことからカシラダカは、IUCNのレッドリストの絶滅危惧Ⅱ類(VU)にランクアップされることになりました。

カシラダカ個体数指数の変動

図1 カシラダカの個体数指数の変動(Edenius et al. 2016を改変)

なぜ減少しているのか?

それではカシラダカはなぜ減少しているのでしょうか?

渡り鳥の数の変動の原因を探るには、繁殖地と越冬地、それをつなぐ渡りの中継地を含む全体に目をむける必要があります。ノルウェーでは繁殖環境の大きな変化は認められていないので、個体数の減少は渡り中か越冬地に原因があるのではと推測されています。日本のカシラダカの主要な繁殖地と考えられるカムチャツカ半島の鳥類研究者に尋ねても、カシラダカの繁殖環境は多様で、環境の減少や悪化は認められないとのことでした。一方で、繁殖地全体を見ると、森林伐採や森林火災などで、繁殖適地が減少している事実はあり、気候変動による環境変化、越冬地での生息環境の減少や農薬使用の影響なども疑われています。

もう一つの重大な要因は人間による「捕獲圧」です。カシラダカと同じホオジロ科のズアオホオジロはヨーロッパで普通種でしたが、近年フランスなどで急速にその数を減らしていることが知られています。またカシラダカと同様にアジアからスカンジナビアまで広範囲で繁殖していたシマアオジは、分布域の全てで減少し、2013年にIUCNレッドリストの絶滅危惧IB類(EN)となりました。シマアオジは日本でもかつて は北海道の各地で繁殖していましたが、1980年代から年々繁殖地が減り、ついに一か所のみとなりました。繁殖個体もごく少数となったことから、2017年には種の保存法の希少野生動植物に指 定されました。これら両種に共通しているのは、渡ってきたところを人間により食料として長期間、大量に捕獲され続けてきたことで、これが減少の大きな要因と考えられています(Kamp et al. 2015, Vickery et al. 2014)

国際ワークショップ

写真1 シマアオジと渡り性陸鳥の保護に関する国 際ワークショップ(中国広州、2016年11月)

絶滅を防ぐため実施すべきこと

このように、日本のカシラダカの減少が何に起因しているのか、まだ明確なことは判りません。あるいは右記の要因が複数関わっているのかも知れません。解明には関係各国の研究者が、様々な観点からの研究を進めなければならないでしょう。しかし、それと同時に保全のためにできることは速やかに実施することが求められます。

そんな中、国際的な鳥類保護団体 BirdLife International などの呼びかけで、2016年11月中国広州において「シマアオジと渡り性陸鳥の保護に関する国際ワークショップ」が開催されました(写真2)。そこではヨーロッパ、ロシア、中国、東南アジア諸国などでのシマアオジを中心としたホオジロ科鳥類の現状と、個体数動向をモニタリングすることの重要性が討議されました。同様の集まりは、今年開催されたロシア鳥類学会議(トヴェリ、1月)や国際鳥類学会議(バンクーバー、8月)、日本鳥学会大会(新潟、9月)でも継続されています。

明らかになったカシラダカやシマアオジの減少がこのまま続いて絶滅に追い込まれることが無いよう注視し、小鳥類のモニタリングと保全に役立つ研究を継続することは研究者の課題と考えています。皆様にもぜひ関心を持ちつづけていただきたいと思います。

(写真・文 おざき・きよあき)

引用文献

Dale, S, Hansen, K (2013). Population decline in the Rustic Bunting Emberiza rustica in Norway. Ornis Fennica 90: 193-202.

Edenius L, Choi CY, Heim W, Jaakkonen T, Jong DEA, Ozaki K, Roberge JM (2017). The next common and widespread bunting to go? Global population decline in the Rustic Bunting Emberiza rustica. Bird Conservation International 27: 35–44.

Kamp, J, Oppel, S, Ananin, AA, Durnev, YA, Gashev, SN, Hölzel, N, Mischenko, AL, Pessa, J, Smirenski, SM, Strelnikov, EG, Timonen, S, Wolanska, K, Chan, S. (2015) Global population collapse in a superabundant migratory bird and illegal trapping in China. Conserv. Biol. 29: 1684-1694.

Vickery, JA, Ewing , SR, Smith, KW, Pain, DJ, Bairlain, F, Skorpilova , J, Gregory ,Ds. (2014) The decline of Afro-Palearctic migrants and an assessment of potential causes. Ibis 156 : 1– 22 .

山階鳥類研究所 (2018). 2016年鳥類標識調査 報告書. 環境省, 東京.

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