このたび林良博先生のあとをうけ、公益財団法人山階鳥類研究所の所長に就任した奥野卓司と申します。
前任の林先生が本研究所で築かれたこと、またそれ以前の歴代の所長のご業績を考えると、とてもお引き受けできる器ではありません。もともと学生時代は生物学から出発したとはいえ、長年、文化人類学・社会学の教員として勤務してきたので、鳥類学の専門家ではないのです。現在も関西学院大学社会学部教授をしており、本研究所所長を兼務します。
おそらく私にできることと言えば、本研究所の理系の鳥類学専門家の方々に、社会的、文化的角度から刺激することで、各自の研究に新たな展開をしていただくことと、その成果を皆様方にお伝えすることくらいだと思います。そのなかで、従来の野鳥、飼鳥の先端的な研究、保存の業務をより深め、文理融合での総合的な「とり学」の構築をめざしてまいります。
「山階鳥研の所長」といいますと研究者仲間でさえ、国のもとでの研究でいいなあと言われてしまいます。しかし、これは大きな誤解で、山階鳥研は民間の研究機関です。今は国立でも厳しい経済情勢にありますが、とくに鳥類学のような基礎研究は逆風にさらされています。ましてや民間の本研究所は、主軸業務の我国のコレクションとしての鳥類の標本、書籍、史料の維持管理に必要な収蔵庫、書庫さえも不十分な状態です。
もちろん今後、基礎研究・調査、希少鳥類の保護活動を進めるだけではなく、社会へのとくに環境問題での貢献、日本の鳥類研究の国際的な存在感の向上、皆様に広く知的な文化的情報提供をしていけるように、理事長、研究員、職員の方々のお力にそって、努めてまいる所存です。
このことの実現は、賛助会員の皆様方の様々な形での御支援、経済的な寄附、助成なしには、民間の研究所では不可能です。これまで以上に、山階鳥研に皆様方のお力添えをいただきますように、心からお願い申し上げます。