研究・調査

2017年3月3日掲載

どうして派手な鳥と地味な鳥がいるのか
~鳥における色の機能と背景~

鳥類は色鮮やかな生物と言われています。そして実際、人々は昔から鳥の色や模様に惹きつけられてきました。これは研究者も同じです。色に関連する研究は、鳥類学における代表的な研究分野の一つになっているほどです。それゆえ、色にまつわる研究には、非常に多くのトピックがあり、簡単には紹介しきれるものではありません。そこで今回は、鳥の色についての基本的な話題を森本研究員が紹介します。

山階鳥研 保全研究室研究員 森本 元

鳥ならではの研究課題

鳥といえば「空を飛べる」ことが最大の特徴の一つですが、色もまたそれに負けないほど、鳥ならではの研究課題なのです。飛行機が発明される以前に、レオナルド・ダ・ヴィンチをはじめ、多くの学者が鳥の翼について研究を行い、「飛ぶ」ためにはどうすればよいかという仕組みを探っていました。色も同じように、鳥達においてどのように使われているのか、どのように発色しているのか、そこにどのような意味があるのかを考えるというのが、生物学的な大きなテーマとなっています。

鳥にとっての色を理解するために、まず生態系と生物の進化を説明しなければなりません。鳥類をはじめ“眼”がある動物にとって、色とは社会的な信号といえます。我々ヒトに人間社会があるように、鳥には鳥の社会があり、そこでは色が利用されているのです。“人間関係”は、文字通り、ヒト同士、つまり同じ動物種同士の関係ですが、鳥は同種同士だけの関係というわけにはいきません。自然環境の中で生き抜いていくためには、各生物は同種の関係だけでなく、様々な他の生物との関係も重要になります。よく知られた「生態系ピラミッド」や「食物連鎖」という考え方はその代表例でしょう。

図1. ヨタカは日中に、木の枝に体をそろえてとまり、身動きせずに外見の隠蔽性を利用して隠れて過ごします。

地味な姿で生き抜く

鳥というと赤色や青色といった鮮やかな鳥が頭に浮かぶかもしれませんが、逆に地味な鳥達もたくさんいます。こうした鳥の体色はまさに、様々な生物同士の関係によって生み出されてきたと考えられています。隠蔽(いんぺい)色(保護色とも呼ばれます)はその代表例といえましょう。生物には、目立つ色の種が存在する一方で、地味な種もいますが、そのどちらにも機能があることが知られています。このうち、目立たないように進化した例が隠蔽色です。例えば、夜行性で夜に飛びながら虫などの餌を捕るヨタカの仲間は、樹木の表面に似た模様と色をしています。遠目に見ても木の枝のコブのようにしか見えず(図1)まさに、景色に溶け込むような外観を利用して、自身の姿を捕食者などの敵から隠しています。

こうした地味さの他の代表例は、性的二型があげられます。生物には、雌雄の見た目がそっくりな種がいる一方で、雌雄で大きく外見が異なる種も存在します(図2)。こうした同種内での性別による大きな見た目の違いは、性的二型と呼ばれる現象です。多くの鳥では、雄の外見が派手で雌は地味であることが多いのですが、これは、雌が異性にモテるために派手になる必要性が低く、巣内で子を温めることが多い等、地味な姿の方が生き残るのに都合がよい結果として、雌の地味な外見が進化したと考えられています。例えば、欧州に生息し雄の派手さに個体差が大きい鳥マダラヒタキでは、派手な外観の個体が、捕食者である猛禽類に襲われやすく、地味な外観の個体は敵から発見されにくいことが知られています。このように、外観の色は、野生生物の生死に直結する重要な要素であり、異種間や同種間の視覚信号として機能しています。

図2. 同種内で雌雄の外見が違うことは性的二型と呼ばれる事象です。写真はマガモの雌(奥)と雄(前)。雄の方が派手であることが分かります。

派手さはどうやって進化した?

派手さもまた同様に、視覚信号として機能します。雄の派手な外見は、性選択という同種内の個体関係を原動力とした進化のメカニズムの結果であると考えられています。この理論を提唱したのは、かの有名なダーウィンです。コクホウジャクやツバメでは、長い尾の雄が雌から好まれることが知られています。コクホウジャクは、雄のみが長い尾をもつ一夫多妻の鳥で、尾の長い雄と短い雄では、尾が長い雄の方が獲得できる雌数が多い、つまり雌にモテることがわかっています。繁殖相手を選ぶ雌による選り好みにおいて、配偶相手を選ぶ為の信号として、雄の外見の派手さが機能しているのです。こうした雄の鮮やかな外観は、小型の鳥では、繁殖期に間に合うように発現します。例えば、オオルリなどでは、生まれた翌年(1歳)の春が、初めての繁殖期です。雄の派手な色は、繁殖に関連する要素なので、多くの小鳥が繁殖可能な年齢になる直前に、換羽によって派手な姿を完成させます(図3 a)。このように、鳥の色の派手さ・地味さの両方に機能がありますが、共通しているのは“眼”というセンサーで受信する信号として色が機能している点です。

ルリビタキとオオルリに見られる性的二型

図3. 性的二型を示す小鳥の一般的な発現パターン(a: 例はオオルリ)と、羽衣成熟遅延(Delayed Plumage Maturation: DPM) を示す鳥(b: 例はルリビタキ)の違い。a が初繁殖に間に合うように派手な羽色を発現するのに対し、b は後年へ遅延しています。
(森本2016・生物科学67:168-176. より改変)

特殊な発色様式も

最後に、少し特殊な発色の例をご紹介したいと思います。多くの種において繁殖期に間に合うように派手な色が現れる、と前述しましたが、実はごく一部の鳥種では、このタイミングの法則が当てはまりません。日本ではルリビタキがその代表例です(図3 b)。ルリビタキの雄は、若い頃(1歳)の繁殖期は、雌にそっくりな茶褐色の外観で繁殖し、雌雄で見分けがつきません。しかし、高齢時は全身を青色に変えて明瞭な性的二型を発現します。このような現象は、羽衣遅延成熟(Delayed Plumage Maturation: DPM)と呼ばれている、特殊な発色様式です。この“遅れ”が起こるのはなぜなのかという謎があるのですが、これはまた別の機会にご紹介できればと思います。

(文と写真 もりもと・げん)

「山階鳥研NEWS 2017年3月号」より

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