研究・調査

山階鳥類研究所データベースシステムの構築と公開

2013年5月2日更新

山階鳥類研究所では、文部科学省科学研究費補助金(特定奨励費)を受けて、これまで「希少野生動物の生存と回復に関する研究」(平成13年度~16年度)、「日本産鳥類資料の整備と活用に関する研究」(平成17年度~平成20年度)を行ってきました。これらの2つのフェーズに引き続き、いわば第3フェーズとして、平成21(2009)年度から「山階鳥類研究所データベースシステムの構築と公開」に取り組んでいます。

(山階鳥研NEWS 2009年9月1日号より)

山階鳥研の資料と国際的な責任

山階鳥類研究所にあって、大学や他の研究機関にはない大きな研究資産として、鳥類標本と図書資料、そして鳥類標識調査のデータが挙げられます。すでに第2フェーズでこれらに焦点を当てた研究をしてきたわけですが、引き続き、第3フェーズでも鳥類標本と標識調査データの活用を主眼とした研究を発展させます。

近年、生物多様性情報については、インターネットでの共有を図る国際的プロジェクトが始動しており、GBIF(注1)、国際バーコードオブライフ(DNAバーコーディング(注2))などのプロジェクトがあります。しかし、そういった国際的な企てに対する日本を含めたアジア諸国からの情報発信は微々たるものなのが現状です。

山階鳥研の鳥類標本と標識調査データはまさにアジア全域で考えてもっとも潤沢な生物多様性情報の源泉ですが、デジタル化も含めこういった国際発信に対応できるまでには整備されていません。

そこでこの研究では、既存の国際プロジェクトにデータを発信すると共に、新しい切り口の生物多様性情報を創出し発信することで、山階鳥研がアジアのバイオインフォマティックス(生物情報学)の拠点となり、国際的な責任を果たすことを目指します。

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国際プロジェクトへの情報発信

まず既存の国際プロジェクトへの情報発信ですが、鳥類標識データ、収蔵標本データ、DNA塩基配列の3つを取りあげます。

鳥類標識データについては、山階鳥研の管理・保有するデータのうち、環境省の委託事業として行われる以前の、1961~71年のデータについて、紙媒体からデジタルデータへの変換を進め、GBIFを通しての国際発信を行います。

収蔵標本データについては、第2フェーズで、コレクションの大半を占める剥製標本についてラベル情報のデジタル化を行っているので、第3フェーズでは卵や巣などの標本のラベル情報のデジタル化を行います。また順次、データ書式のGBIF対応化などを行って、山階鳥研のウェブサイトで公開し、GBIFを介した国際発信を開始します。

DNA塩基配列データについては、10年ほど前から蓄積を進めてきた、8,000点を越える組織サンプルを用いて、日本で繁殖する鳥類約250種についてDNAバーコーディングのための塩基配列の解読を進めます。

また、山階鳥研が所蔵する絶滅鳥類の標本からDNAを抽出し、塩基配列の決定を試みます。希少鳥類についてはミトコンドリアDNAの全塩基配列の決定を行います。これらの結果は、国際データベース等に情報を登録します。

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鳥類学の新分野の開拓

次に、既存の国際プロジェクトとは別の研究テーマの創出(新たな国際プロジェクトの立ち上げに向けた準備)ですが、鳥類標本を現代のテクノロジーを用いて分析することにより、鳥類学研究の新分野の開拓が可能と考えられます。

たとえば、剥製標本から骨格の形状データを取り出すことができれば、世界的な骨格標本の蓄積の不足を補うことができ、古生物学や動物考古学分野との協力によって、新たな学際的研究分野を作り出すことが可能と考えられます。この研究ではCTシステム(注3)を使って、剥製標本の骨格の三次元データを、高精度かつ非破壊的に取り出す技術を開発します。そして、鳥類の形態進化に関する研究を行う計画です。

また、この研究では、鳥類の体色・卵色を簡便に測定する技術を開発します。色彩の定量化技術は近年になって発達してきたものの、鳥類の研究に適用できるためには、いくつかの欠点がありました。技術的な問題点に改良を加え、実際に標本に用いることで、色彩の変異を地球規模で調査し、その進化を問うという、鳥類学のフロンティアに至る道が開かれる可能性があります。

色彩の定量化技術を開発するため液晶チューナブルフィルターを用いて標本を撮影する

ここに述べた、(1) 既存の国際プロジェクトへの参画、(2)新たな国際プロジェクトの立ち上げに向けた準備、というふたつの目的を達成するため、以下の4つの研究項目を設けます。

  • 1.標識データベースの構築と公開
  • 2.DNAバーコーディングの確立と公開
  • 3.標本データベースシステムの高度化に関する研究
  • 4.図書資料の整備および山階鳥類学雑誌の刊行

以上の計画は、すでに文部科学省に認められ、平成21(2009)年度は総額5,600万円で執行されます。

この研究の外部評価委員会に相当する総括・研究調整会議の委員を、川那部浩哉(委員長・滋賀県立琵琶湖博物館館長)、青木清(上智大学名誉教授)、石居進(早稲田大学名誉教授・山階鳥研客員研究員)、岩槻邦男(兵庫県立人と自然の博物館館長)、遠藤秀紀(東京大学教授・山階鳥研客員研究員)、小野勇一(北九州市立いのちのたび博物館館長)、進士五十八(東京農業大学教授)、中村浩志(信州大学教授・日本鳥学会会長)、早川信夫(NHK解説委員)、林良博(東京大学教授・山階鳥研副所長)、日高敏隆(元総合地球環境学研究所長)、星元紀(東京工業大学名誉教授)、宮田隆(JT生命誌研究館顧問)、和田英太郎(海洋研究開発機構フロンティア研究センタープログラムディレクター)の各氏にお願いしています。

(注1) GBIF(ジービフ):Global Biodiversity Information Facility 地球規模生物多様性情報機構 分散型のデータベースネットワークの構築によって、全世界の生物多様性情報を誰もが自由に利用できるようにすることを目指す。当初は、種や標本レベルのデータを集中的に整備するが、将来的には分子・遺伝子や生態系レベルまでリンクする。国家や国際機関等の多国間協約に基づく国際的科学プロジェクト。

(注2) DNAバーコーディング:DNA barcoding種の違いを反映するような、特定の遺伝子領域の短い塩基配列を解読することで、微小なサンプルからでも生物種の同定を可能にする技術。当該塩基配列を全世界の生物について解読し、データベースに登録するために、世界各国の機関や組織が参加して、国際バーコードオブライフというプロジェクトが進行している。

(注3) CT:computed tomography コンピュータ断層撮影 物体にX線を照射して得た画像を、コンピュータで処理して、物体の断面図や三次元画像を得る技術。


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