2018年3月28日更新
岡奈理子上席研究員(現・フェロー)は、オオミズナギドリの世界最大の繁殖地である伊豆諸島・御蔵島(みくらじま)で、同種の繁殖集団に影響を与えているノネコ問題に取り組み、2015年2月から御蔵島村と連携してノネコの捕獲と持ち出しに向けた活動を行っています。島外に持ち出したノネコの里親も募集しておりますのでご協力をお願いいたします。
御蔵島は東アジア固有の海鳥オオミズナギドリの世界最大の繁殖地であり、小笠原諸島とともに東京都のエコツーリズムの島に認定されています。近年、御蔵島では人が持込んだネコの子孫が野外で繁殖する「ノネコ」が増え、オオミズナギドリや、島で進化した固有な動物に脅威となってきました。
山階鳥研の岡上席研究員は、急減し続ける御蔵島のオオミズナギドリを守るために、ノネコの島外持ち出しプロジェクトを行っています。昨年は捕獲された30頭のうち若いノネコ13頭を島外に持ち出し、名乗り出て下さった里親の方々にお渡ししました(本紙2015年1月号、5月号参照)。島ではノネコを一時飼育する待機所もできました。
今冬からは東京都獣医師会が御蔵島のノネコ持ち出しを始めます。同会では先行する小笠原諸島からのノネコ持出し数も多く、受け入れ先が不足します。そのため今年も引き続き御蔵島のノネコの里親を募集します。関心がある方は下記連絡先の岡までご連絡下さい。
『山階鳥研ニュース』 2016年1月号より
御蔵島は、東アジア固有の海鳥オオミズナギドリの世界最大の繁殖地として知られ、1970年代には175~350万羽が生息したと報告されています。しかし2012年夏には総繁殖数は80万羽を切り、その前5年間と比べても12%が減少し憂慮されてきました。その原因として、持ち込まれたネコが野外で繁殖したノネコによる食害が指摘されています。岡上席研究員の試算によると、同島内にノネコは約500頭生息するとみられ、オオミズナギドリの繁殖期の9ヶ月間に主に親鳥を捕食し、秋にはヒナも捕食していると考えられます。さらにノネコの繁殖によって、ミクラミヤマクワガタ、オカダトカゲ、カラスバト等の固有あるいは希少な種も大きな影響を受けていると考えられます。
御蔵島村では2005年秋以来、合計389頭のノネコの捕獲・不妊去勢手術を行ってきましたが、島外へ持ち出せたネコはごくわずかに過ぎず、ほとんどのノネコは手術後、島内に再度放獣されてきました。ノネコを島外に持ち出すことができれば、御蔵島の自然環境をいっそう早く従来の状況に戻し、希少動物の減少や絶滅を食い止めることができますが、島外に持ち出すためには、本土側でのネコの受け入れ体制が必要です。
希少種が生息する島嶼でのノネコの島外持ち出しは、小笠原諸島で地元NPO法人が他機関と協力して先駆的に行っており、そのうちの父島では約10年の歳月をかけてほぼノネコを島から出し終えたところですが、それと共に、これまで絶滅が心配された固有亜種のアカガシラカラスバトの繁殖集団が復元されつつあります。
このたび、岡奈理子上席研究員は、御蔵島村、(公社)東京都獣医師会などと協力して、小笠原諸島の事例にならったノネコの島外持ち出しプロジェクトを開始することになりました。ノネコは、オオミズナギドリが繁殖のために島にいる3月から11月まではほとんどかごワナに入らないため、オオミズナギドリが島にいない厳冬期の2月に集中して捕獲します。昨年は新たに捕まえた約40頭のうちの約半数が子ネコでした。現在、2月の捕獲に向けて、ノネコの持ち出しシステムづくりを始めています(子ネコの里親募集はこちらをご覧ください)。
このプロジェクトはアウトドア自然保護基金と、(公財)自然保護助成基金のプロ・ナトゥーラ・ファンドを受けて実施しています。
『山階鳥研ニュース』 2015年1月号より
世界最大のオオミズナギドリの繁殖地がある伊豆諸島・御蔵島で急増したノネコに取組む岡 奈理子上席研究員に、最新の活動と経緯を報告してもらいました。
山階鳥研 上席研究員 岡奈理子
鳥類の絶滅の多くは、肉食哺乳類が皆無だった島に、狩りの名手が持込まれて起こることは広く知られています。今、伊豆諸島の御蔵島では、この脅威が現実のものになりつつあります。
御蔵島を初めて訪れた1970年代後半以後、私はオオミズナギドリの集団繁殖地でノネコを見ることはありませんでした。が、近年、異変が起こりました。多様な毛色のノネコと、鳥の死体が、繁殖地に寝泊りする私の目に幾度も飛び込んでくるようになったのです。もともと飼い猫の子孫が野生化したのがノネコです。思い余って箱ワナで捕らえ村役場に運んだのが2005年。集落では鶏小屋がノネコに襲われ全滅した年でした。
これを皮切りに村役場でノネコの捕獲が始まりました。10年間で不妊去勢した数は約4百頭。しかし引き取り先がなく再び島で放されてきました。長寿命な動物だけに生涯、島の野生動物に脅威となり続けます。
なんとかノネコを島外に出せないものか。
私は役場担当者が保管するノネコ捕獲データを分析し、現状と見通しを役場に説明し、東京都獣医師会などに協力を要請しました。そして昨年、再放獣から島外持出しへ舵(かじ)を切る合意ができました。
今年2月、村役場のノネコの一斉捕獲・不妊去勢活動に合流しました。子ネコを対象に島からノネコの持出しを試行しました。
2週間で捕まったのは計30頭。このうち約半分は人が近づくと牙を出し威嚇する野趣な成獣でした。これらは不妊去勢後に島に放されました。しかし残りの14頭は3~8ヶ月齢の若いノネコです。島の自然もネコもどちらも好きな賛同者や、里親を呼びかけてくれた全国紙などの協力を得て、里親をみつけることができました。島民の飼い猫になった1頭を残し、フェリーで本土に渡った13頭は、関東周辺の方々や、最も遠くは新幹線に乗って兵庫県在住の方にもらわれて行きました。この数は新規捕獲数の約半分に当ります。
次のステップはノネコ持出しシステムを作ることです。御蔵島発着船は、桟橋が波をかぶる冬季には定期運行をあてにできない状況になります。その間ネコを飼う施設と島民の協力が不可欠です。里親となって支援下さる方を見つけられなければ、持出しそのものが成り立ちません。
今回のノネコ持出し活動にご協力下さった方々へ感謝しつつ、今後も関心を持ち続けていただき、里親探しにご協力いただける方々のご支援をお待ちしています。
(文・写真 おか・なりこ)
『山階鳥研ニュース』 2015年5月号より
伊豆諸島の御蔵島は、東アジア固有の海鳥オオミズナギドリの世界最大の繁殖地です。ここでは、人が持込んだネコの子孫が野外で繁殖する「ノネコ」が増え、オオミズナギドリや、島で進化した固有な動物に脅威となってきました。昨年の定年退職後も、引き続きオオミズナギドリの保全活動に取り組んでいる岡奈理子さんにノネコ問題について解説していただきました。
山階鳥研 フェロー 岡 奈理子
御蔵島(みくらじま)は伊豆諸島の山岳島で、世界最大のオオミズナギドリの繁殖地です。島に桟橋が造られたのが半世紀前。それまで絶海の孤島として約300人の島民とオオミズナギドリが文字通り共生する島でした。その御蔵島を私が初めて訪れたのが1976年。その後、10年間隔で調査に入り、搭載型研究機器が小型化し、洋上行動の研究が可能になった2001年、喜び勇んで入島した私を待っていたのはノネコでした。年を追うごとにオオミズナギドリの死体が目に付くようになり、繁殖地がこれまでと別フェーズに入ったことを悟りました。オオミズナギドリ研究で受入れた大学院生が全て博士号を取得し終えた2012年以後、私はノネコの減量化と実態調査、島の内外への周知と啓蒙活動、他の島々の同じ悩みを抱える研究者らとの連携、行政への働きかけなどを始めて今日に至っています。
時は今、空前の猫ブーム。日本で既に約1,000万頭の飼い猫がいますが、残念なことに、野外に出た飼い猫やその子孫が野生動物に重大な被害を与えていることには関心が薄いのが実情です。
ノネコに漢字をあてると「野猫」。家畜のイエネコですが、民家周辺の「野良猫」、飼い主がいる「飼い猫」と違い、野外で世代を重ねる野生のものを言います。イエネコ(学名 Felis silvestris catus)は、もともと中東から北アフリカに原産するリビアヤマネコを祖先として、主にネズミを捕らせる目的で家畜化され、農耕の伝播とともに世界各地に持ち込まれました。
1頭のメス猫は翌年には30~40頭も子や孫が生まれる多産動物。不妊去勢を義務化せず外飼い習慣がある日本では、増加は必然でした。なぜなら日本の自然生態系ではもともと外来生物であるため、猫を捕食して数を抑制できる野生鳥獣は既に絶滅したニホンオオカミを除き、ほぼ存在しませんでした。自然生態系への脅威を見越して、戦後すぐの法改正でノネコを狩猟鳥獣に指定し、生息数の抑制が期待されましたが、三味線の皮などの商業需要がない現在、お金と手間をかけて狩猟免許を取りノネコを捕る人はいなくなり、生息数の抑制効果は無くなりました。さらに地方自治体は殺処分ゼロを標榜し、犬猫を引き取らない保健所(動物愛護センター) が常在化しているのも、生態系の保全という見地からは大きな問題だと考えています。ノネコの抑制を現在の法制度に期待できない現在、野生動物の生息地からノネコを除去する活動は多くは民間の獣医師や有志、野生動物保護団体などの細々とした活動に頼っています。
御蔵島の推定ノネコ数は約500頭(25頭/平方km)。御蔵島のオオミズナギドリ数は2016年には11万羽にまで落ち込み、40年間で93~97%減の壊滅状態です。この激減は、多くの野生動物が減少した近代・現代史のなかでも特筆に値するでしょう。日本の鳥獣行政と民意のあり方が試されているといえます。
(文/写真 おか・なりこ)
『山階鳥研ニュース』 2018年3月号より