歴代所長からのメッセージ


『文藝春秋』2003年11月号
「特別企画 皇后美智子さま51人の証言-ご婚約から45年私が見た素顔の皇后-」より
紀宮さまに「白馬の王子」出現を

山階鳥類研究所所長 山岸 哲
 皇后陛下とは、私はそれほど親しくお話しをしたことはない。紀宮様が山階鳥類研究所で非常勤の研究員をされており、週に二回ずつお出ましをいただいているので、そこの所長として、宮様のお誕生日にお招きいただき、その折にほんの少々言葉を交わしたぐらいである。乏しい経験からではあるが、私が感じた皇后陛下・美智子様の、ことに母親としての印象を僭越ながら書かせていただきたい。
 四月十八日は紀宮様のお誕生日である。所長に就任してからは、毎年そのお祝いの会に宮中へお招きを受けている。特に今年は、その席上で参会者を代表して「お祝いの言葉」を述べさせていただく栄誉を得た(本誌七月号、八十ページ、「紀宮さまのお誕生日に」)。お祝いの言葉の後に、両陛下が私にお近づきになられて、御礼のお言葉を賜った。
 皇后陛下からは、紀宮様のカワセミの論文作成指導に対する御礼のお言葉があって、「紀宮は毎週、山階へお伺いしているのですが、私は、ほとんど何をしているのか詳しくは知りませんでした。本日はじめて、具体的にお聞きでき、研究所でどのような生活をしているのかがわかり、大変ありがたく思います」とのお言葉をいただいた。
 これに引き続いて、お兄様の秋篠宮殿下が研究所の名誉総裁をされ、月に二回ぐらいお出ましをいただいて、室長会議や所員会議で親しくご指導いただいていることに対する御礼を申し上げると、「あれで、お役に立っているのでしょうかね」と、さり気なくおっしゃられた。
 このとき私は、自分の母親がまわりから「先生にはいつもお世話になっています」などと言われたとき、「倅が外で何をしているのか少しも知らないのですよ。あれで何か世間様のお役に立っているのでしょうかね」と答えていたのを思い出したのである。家内もまた「ご子息にはいつもお世話になっています」などと挨拶されると同じように答えていた。
 つまり、美智子様のお言葉からは、我が子が自分の知らない世界で、どのように活動しているのかを聞かされたときの、どの母親でも持つであろう、あの心配と多少の安心感が入り混じった温かい親心がひしひしと伝わってきて、畏れ多いことながら「やっぱり美智子様は普通のお母さんなのだ」と強く感じた次第だ。
 ところで話は変わるが、先ごろ研究所の若い研究員同士が結婚して、ささやかなお祝いの会を開いた。そこへ紀宮様もご参加され、幸せそうな新郎新婦を心から祝福されておられた。皇后陛下・美智子様が、もし普通のお母さんなら、今一番お心にかけられているのは、おそらく紀宮様のお相手のことだろうと想像できる。一日も早い「白馬の王子様」の出現を私も願ってはいるものの、その一方で、いつまでも研究所にお越しいただきたいものだなどと、はなはだ勝手なことをひそかに願ってもいる。


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