長野で生まれ育った。「小鳥少年」で、学校が終わればかばんを放り出し、山で鳥の巣を探した。トラツグミは、ミミズをまるでそうめんを食べるように口いっぱいに垂らしてヒナへ運ぶ。鳥のえさを通しても、自分の周りにいっぱい生き物がいるんだと驚いた。私は生物多様性を「いのちのにぎわい」と呼んでいる。たくさんの生き物がいることを「うれしい」と感じる気持ちが原点にある。
一方、生物多様性は、大きな経済的な価値も生み出している。例えば、マダガスカル原産のニチニチソウの仲間から抗がん剤ができる。どこにお宝があるかわからないから大切にしようという考え方は実利的でわかりやすい。ただ、理屈で考えすぎると「うれしい」と思う気持ちが欠け、生物多様性の大切さが広がらないように思う。
「Today birds, tomorrow men(今日の鳥は明日の人間)」という言葉がある。鳥を調べれば、人間の命運を推し量れるという意味だ。トキは日本中に飛んでいたありふれた鳥だった。人間が狩猟し、さらに、土地改良事業や農薬の使用でえさのドジョウやザリガニが田んぼにすめず、森林が荒れて巣を作れなくなり、絶滅した。今、トキを日本の空に取り戻そうとする理由は二つある。一つは生物多様性を増やす直接の効果だが、トキが生き続けることができる環境を取り戻す意義の方が大きい。トキの再生は地域の再生なのだ。
ただ、自然との「共生」を強いられた「強生(きょうせい)」にしてはいけない。我慢して一緒に生きていこうとしても長続きしない。放たれたトキが稲を倒そうとしたら、農家の人は遠くへ追い払えばいい。