林良博・山階鳥研所長(司会): 遠藤先生のお話を、真鍋先生はどう考えられたでしょうか。
真鍋: 鳥はもともとが恐竜だったというところが大きいのかもしれないです。しっかりとした足を持っていて、すごく速く走ったりできるものもいる。そういった意味でほかに比較の対象がないぐらい、空と陸と水中を制覇できる可能性を持ち続けていた、進化の中でもすごく特異な存在だというのを改めて感じます。
遠藤: 羽毛を生み出す素地というか、恐竜の皮膚構造に骨や筋肉をいじらなくても劇的に体表を変えていくような進化的な傾向はあるのでしょうか。
真鍋: 鳥は、足はうろこのままで、膝から上の表皮だけをガラッと変えてしまいました。体温を一定に保てることで、羽毛恐竜という動物の競争力を高めていて、それができたことから、鳥につながる、恐竜も含めて大繁栄が起こっていると思うのです。そういった意味で、膝から上をどういうふうにしてあれだけ変えられたかというのは、僕も実は長年の疑問です。
林: 無脊椎動物のほうが先に空に進出していたわけですが、彼らが鳥のように成功しなかったのは、あの立派な外骨格が邪魔になったと考えていいのでしょうか。
遠藤: 昆虫は、空を飛翔し、陸でも水中でも多様性に富む生活ができるわけですから、十分成功だと思います。
真鍋: 化石の巨大なトンボなどはあまり長く続いていないようで、外骨格ということに制約がかかっているというのがまずあると思います。もう一つは、大きくなると個体の維持のためにたくさんのエネルギーが必要になりますが、昆虫は小さな個体をたくさん増やして、さまざまなところに生息させることで、ちょっとした環境の変化に種族全体が対応できるといったところで勝負をしています。そういったところは全然かなわない感じがします。
遠藤: 翼竜の一番大きいのはどれぐらいになるのでしたか。
真鍋: 最近下方修正されて、だいたい8メートルぐらいと言われています。完全な鳥ですが、南米のチリで見つかった化石が、翼を広げたときに少なくとも5・2メートル以上あります。ちゃんと飛べたのか、かなり厳しいような感じがします。
林: これまで飛べた鳥の中で推定で最も大きかったのは何キロぐらいまであったのでしょうか。
真鍋: 今のところ、一番飛べそうで、一番重いのは先ほどのチリの鳥で推定体重が29キロというのではないかと思います。
遠藤: いずれにしろ、ある程度胸に筋肉がないといけなくて、30キロの体重があったら、5キロぐらいはどうしても胸筋に持っていかれるでしょうね。それから翼面過重といって風切羽全体の面積で体重を割ったときにどのぐらい支えて飛べるかというのがあります。飛ぶ以上はいかに鳥でも大きくしていったら、どこかで無理が出てくるので、無理が利く範囲でしか大型化はできないというのはあります。
林: 私たちはここにいる人間は、皆さん30キロ以上あるでしょうから、おそらくいくら胸筋を鍛えてもだめですね。
フロア: 鳥の祖先はたどっていくと1種類にたどりつくのでしょうか。
真鍋: 化石を見ていると、今のところ一つのルートであろうという可能性のほうが高いです。
フロア: 羽毛を持った動物の化石が今のところヨーロッパと中国で見つかっているということですが、ヨーロッパと中国は全然接点がないように思うのですが。また、中国で羽毛を持っている動物が多数発見されている以上は、やはり中国で鳥が誕生したと考えられているのでしょうか。
真鍋: 中国の羽毛恐竜たちの中から鳥が出てくるという可能性は、今見つかっている多様性だけでヨーロッパとアジアを比較してみると高いです。
別の次元の話で、ちょうど始祖鳥が出てくるジュラ紀後期に、アジアとヨーロッパの間に海ができて二つに分離する、それからいったん世界中が寒冷化します。そういったことがらと、羽毛恐竜が出てくるというのは、何か関係があるのではないかということが言われているのですが、ずばりこういうシナリオだということは、まだ描けていない状態です。
林: 今日のシンポジウムは、生物多様性年という年に多様性をぜひ取り上げようということと、森岡先生が今回、山階芳麿賞を受賞されたということを記念して、「かたちの多様性」ということですばらしいお二人の話を聞きました。森岡先生の受賞をもう一度お祝い申し上げますと同時に、若いお二人に今日のシンポジウムの内容を感謝して終わらせていただきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。