2.1.1 人間の健康への害


 人間と動物との間に共通する伝染病や、動物によって媒介される人間の疾病は少なくない。特に飼育動物などは、人間との直接の接触の機会が多いため問題も大きい。一般の野生の鳥類に比べれば、ドバトも人間との接触の機会が比較的多いので、人間に対して次のような疾病をもたらす可能性が少なからずあると考えられる。しかし、これらはいずれもドバトだけに限ったことではなく、他の鳥類についても同様の可能性がある。

a.オウム病 2) 3) 4) 5)

 オウム病は元来鳥類の疾患であり、鳥類との接触により、まれに人間に感染することがある。オウム病病原に感染している鳥類は133種 4) (徐慶一郎 1978。私信によれば、約150種)に及び、オウム属以外ではトリ病(Ornithosis)と呼ばれ、オウム病(Psittacossis)と区別されることがある。

 オウム病は Chlamydia 属の微生物による急性の全身的感染症で、人間が感染した場合には発熱と頭痛を伴う原発性異型肺炎の症状を示す。オウム病による死亡率は、抗生物質発見前は20%を越えたが、現在ではテトラサイクリン等の抗生剤の使用により1%以下になったとみられる。
 オウム病に感染したドバトは各地でみられ、一部では病原体も分離されている(表2.1)。このようなドバトと接触する機会の多い成田山新勝寺職員のオウム病抗体保有調査では18%が陽性であったが、小鳥販売業者や輸入鳥を扱う動物検疫官の抗体保有率は非常に高くなっている(表2.2)。また、オウム病発症例のほとんどは、飼育鳥類に由来している。

    表2.1 ドバトにおけるオウム病感染状況(徐 1977より)

    地区
    被検数
    CF陽性
    HI陽性
    病原体分離
    成田 17 13 15 2
    築地 10 3 6 0
    鎌倉 9 2 4 0
    川崎 9 3 5 1
    札幌 12 2 6 0
    仙台 15 8 8 1
    千葉 20 16 18 0
    92 47 62 4


表2.2 オウム病抗体保有状況(徐 1977より)

    対象
    CF抗体価
     0 
    16×
    日鳥連会員
    7 23 40 35 105
    検疫所職員
    31 9 6 4 50
    成田山新勝寺職員
    82 13 3 2 100


b.クリプトコッカス症 1) 7) 12)

 クリプトコッカス症(Cryptococcosis)は、Cryptococcus neoformans による真菌症で、主として脳・脳脊髄膜に病巣を作る。C. neoformans は、土壌や鳥類の排泄物の中から分離され(表2.3)、乾燥した排泄物やほこりなどと一緒に人体に吸収されるが、通常では人が発病することはまれである。

 「ドバト」の糞からの C. neoformans の検出率は、ドバトより伝書鳩が高く、ドバトでは神社仏閣由来のドバトの方が高い(表2.4)。しかし、ドバト体内からは C. neoformans は分離されず、ドバトの自然感染も起こらない。これは、C. neoformans の温度に対する抵抗性が弱く、約40℃のドバト体内では発育の抑制をうけるか又は死滅するためと考えられる。

表2.3 鳥類排泄物よりの Cryptococcus neoformans 検出成績(螺良 1962より)

被検鳥類
材料数
C.n. 検出
分離株数
ニワトリ 4 1) 1
ドバト 7  2)  
デンショバト 6 2
キジバト 8 23
インコ 1  
セキセイインコ 2  
コルリ 1  
コマドリ 2  
ツグミ 3 1
モンツキドリ 4  
ウグイス 3  
コウライウグイス 4  
ヤマガラ 4  
メジロ 5  
ホオジロ 5 1
ミヤマホオジロ 4  
カナリア 2  
ウソ 2 4
イカル 3  
スズメ 1  
ムクドリ 5  
カラス 2  
ブンチョウ 2  
ジュウシマツ 5  
キンカチョウ 2 3
コキンチョウ 2 4
コモンチョウ 2 6
                          1) +:陽性、2) −:陰性


    表2.4 鳩糞からの Cryptococcus neoformans の分離(石田1963より)

種類
陽性
陰性
デンショバト 24 13 37
ドバト
  神社仏閣
  その他
23
(15)
( 8)
43
( 9)
(34)
66
(24)
(42)
47 56 103


c.外部寄生虫 8)

 ドバトに寄生するダニが、時たま人間に対して重い皮膚炎を起こすことがある。またダニやシラミなどが多い時には、これらが人間の体の上をはいまわることにより、痒やその他の合併する症状とともに忌避や嫌悪感が起こる。
 また、これらの節足動物によって、伝染病等の病原体が媒介される可能性も考えられる。


d.アレルギー 3) 8)

 人間に起こるアレルギー反応と鳥類との因果関係は明確ではないが、羽毛との接触により、喘息発作を伴う重いアレルギー症状を起こすことがある。また、伝書鳩やセキセイインコの飼育者の中には末梢ガス交換組織を侵す肺疾患が発生することがある。これは、鳥類の排泄物中の抗原を吸入することによって引き起こされる。


e.その他 3) 8)

  鳥類からの感染症として、オウム病とクリプトコッカス症をあげたが、この他に鳥類から人間及び家畜への感染症として以下のものの可能性が考えられるが、ドバトについては不明な点が多い。

1)ニューカッスル病
 鳥類では肺炎と神経症が著明だが、人間では急性顆粒結膜炎が一般的な症状である。

2)サルモネラ及びボツリヌス中毒
 これらの中毒を起こす細菌類が、鳥類に由来することがある。

3)トキソプラズマ症
 Toxoplasma gondii という原虫により起こるが、鳥類から人間への感染については明らかではない。



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