CT装置で卵内部をみる関係者。(社)海上ビル診療所で。
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かつてマダガスカルに生息し、絶滅した象鳥(エピオルニス)の卵の内部に、骨や脂肪ではないかと推測される内容物が存在することが、進化生物学研究所と、秋篠宮総裁、山岸所長らの共同研究で確認され、山階鳥類研究所研究報告第24巻2号に発表された。
今回調査対象になった卵は、進化生物学研究所所蔵のもの。絶滅鳥の貴重な卵のため、医療用CT装置を使って、卵の外側から内部の撮影が行われた。その結果、骨や脂肪と同程度のCT値を示す内容物が映し出された。
(山階鳥研NEWS 7月1日号より)
【生物の系統進化に詳しい長谷川政美・統計数理研究所教授のコメント(全文)】
象鳥の卵の内部構造をCT装置を用いて撮影した今回の吉田・秋篠宮・山岸・浅田論文は、大変興味深いものである。象鳥はかつてマダガスカルにいた絶滅種であり、ダチョウ、レア、エミュー、ヒクイドリ、キウィーなどと同じ走鳥類に属する。これまでの分子系統学的な解析から、走鳥類は鳥類のなかで単系統群を成すことが示されている。走鳥類はすべて飛べない鳥であり、それらが南半球のさまざまな大陸に分布することから、ゴンドワナ大陸の分裂との関連からも、走鳥類の系統進化の問題は興味を持たれるのである。象鳥は数百年前まではマダガスカルに生息していたと考えられており、条件のよいサンプルが手に入れば、DNAの解析が可能である。実際、Alan Cooperらは象鳥の骨からミトコンドリアのDNAを解析している(Nature, 409, 704-707 (2001))。しかしながら、彼らの用いたサンプルの保存条件があまりよくなかったようで、およそ16,000塩基からなるミトコンドリアゲノムのうちのおよそ1,000塩基しか解読できなかった。一方、同じ絶滅種であるニュージーランドの走鳥類モアについては、2種のミトコンドリアDNAを完全に解読することができたのである。象鳥については不完全なデータしか得られなかったため、走鳥類の間の系統関係にはまだ不明な点が多い。
今回の論文で、卵のなかに骨や筋肉かもしれないと思われるものが見出されたことは、この卵の主は、ある程度発生が進んだ後に死んだものと考えられる。だとすれば、そこからDNAが得られる可能性は十分にあるだろう。発生が進んでいない卵は基本的には1つの細胞に過ぎないが、発生が進めば細胞数が増えDNAもそれにつれて増えているからである。ただしDNAの解析をするためには、この卵の殻をくりぬいて内容物を取り出す必要がある。貴重な標本を傷つけるわけであるから、注意深くなければならないが、今回のCTによる撮影によって、それをやる価値が十分にあることが明らかになったと思われる。 |
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