5.2.5 捕獲方法


 環境整備を行うと同時に状況により捕獲方法を併用するのも1つの方法である。捕獲は法的規制を受けるので、必ず許可を受けて行い、効果的な捕獲法を選択するとよい。

 筆者らの経験では捕獲を続けると捕獲数が減少して来る(図5.2)ので、捕獲は継続することが必要である。英国のPCO会社 Pentokil Laboratories社のリーフレットによると、1つの群れを捕獲によって減らしても隣の群れが3週間以内に移動を始め12週間後には完全に移ってしまうということである。またこのPCO会社では独自のプログラムで3カ月間に英国のある地域のドバト3,750羽のうち75%の2,800羽を捕獲している。

 工場地域のドバトの個体数の月変動は図5.3の通りである。定点観測であるが、その時の風向、周辺地域の捕獲羽数(図5.4)の影響はないと思われる。1月に最小羽数となるので、この時期に重点的に捕獲すると他からの流入がない場合、春先の繁殖に影響を与え個体数の増加抑制に効果があると考えられる。

図5.2 日配横浜工場で捕獲されたドバト羽数月変化
図5.2


図5.3 日配横浜工場周辺で観察されたドバト個体数の月変動 (各月上旬3日間の平均値)
図5.3


図5.4 横浜市神奈川区・鶴見区で捕獲報告されたドバト月別羽数
図5.4


a.捕獲手続
 ドバトは法律上保護鳥となっているので、有害鳥獣駆除の目的で捕獲する場合は都道府県知事の特別許可が必要である。鳥獣捕獲許可申請書は都道府県の鳥獣行政担当課(自然保護課、林務課、林政課、治山課、林業課などがあり、県庁所在地以外は管轄の行政センター等の地方事務所や農林事務所)に提出する。

 申請は法人(国、地方公共団体、農業協同組合、森林組合、漁業協同組合、会社等)から出すことができるが、実際に捕獲に当る者には1人1人に従事者証が都道府県知事より交付される(表5.3参照)。ドバトの捕獲に従事する者は法人の職員か法人の指揮監督の下に捕獲することを事前に承諾している者で、職員以外の者は必要に応じ容易に捕獲に参加できる者のうち、原則として狩猟免許者の中から選任される。個人でも申請できるが、この場合でも広域的、計画的な共同防除を行うようにする。

 申請書には申請者の住所、氏名、生年月日(法人の場合は住所、名称、代表者の氏名及び従事する者の住所、職業、氏名、生年月日)、鳥の種類、数量、目的、方法、期間、区域、被害状況、捕獲の理由等を記入する(表5.4参照)。卵を採る場合は申請書を知事を通して環境庁長官に申請する。但し巣のみを除去する場合は許可の必要はない。

 申請すると鳥獣捕獲許可証が交付される。許可証には捕獲許可期間内に捕獲した数量(1羽も捕獲されない場合は0とする)を記入し、終了後30日以内に返納する。現状では捕獲許可羽数以上捕獲された場合でも許可されることが多い。

表5.3 従事者証の様式

表5.3


表5.4 鳥獣捕獲許可申請書の一例
表5.4

b.捕獲方法
 かすみ網以外の猟法が認められているが、現在ドバトに対して実施されている捕獲法として手どり、網、捕獲小屋、銃器がある。爆発物、据銃などは危険防止の上からも認められていない。劇薬、毒薬等は環境庁長官の許可で使用可能となったが、他に代替手段がなく、大量無差別の捕獲とならず、また劇薬に伴う2次被害等の発生がないなど安全確保が難しく要求され、現実には鳥には使用されることはほとんどない。
 おし、つりばり、とりもち、弓矢、くくりわなも特別許可で使用できるが、ドバトに対してはほとんど使用されていない。銃器を使用する場合は口径10番以上の銃器、飛行中の飛行機、運行中の自動車、5ノット以上のモーターボートの上からの使用、3発以上の弾倉のある散弾銃、ライフル銃、空気散弾銃は使用できない。

1)手どり
 手どりが行えるドバトは十分に餌付けされたドバトに限られる。餌をまきながら身をかがめ、近づいて来たドバトを手で素早くつかまえる。雨天や悪天候の続いた翌日で空腹時に行うと効果的である。

2)網
 むそう網、はり網がある。むそう網には穂打ち片むそう、双むそう、袖むそうなどがあり、平坦な場所に餌をまいてドバトの群れをおびきよせ、引綱によって仕掛けた網を引き起こしてかぶせ、一度に多数を捕獲する方法である。漁網で作った木製枠付の網の上部におもりを付けたものを立木にたてかけドバトが集った所で両側よりひもで引いて網をかぶせる方法(バックネット)は、網を大きくして多数を捕獲する場合にも素早く網を倒すことができて有効である(図5.5.)。
 はり網は絹やナイロン等で作られ、上または空間に垂直に張る網であるが、1979年よりカスミ網同様禁止となった。

図5.5 バックネット
図5.5

3)捕獲箱法
 箱わなの一種で、ロ.の方法は一般に使用されている。餌付けされている場所に効果的である。使用に当っては効果的な時期、場所を選定する。止まり場や塒の近くに置くとよいが、それらが他人の土地や橋の下などの場合は許可を受けてから実施する。

4)小型箱わな
 外国製のものが多く入手しづらいが、小型のケージに市販のアルミ製トラップバー(Bobwire trap 小鳥店で入手可)をとりつけたものを自作するとよい。移動が容易なので、工場地帯と異なり少数が加害して移動するような農村部のドバトや、大型の捕獲箱を置きにくい団地等で使用するとよい。

a)ケージトラップ
 種々のハト用トラップが市販されている。テンダートラップ Tendaer Trap #0475 は米国 Woodstream社製で内部の餌台にドバトが乗ると片開きのフタが落ちる。長さ410mm×巾150mm×高さ150mm、鵬図商事(株)扱い。
 バードトラップ #502 は米国 Tomahawk Live Trap社製。長さ610mm×巾288mm×高さ384mm、両サイドに普通のトラップバーがついている。扱っている代理店はまだない。

b)逆のぎ(芒)付ケージトラップ
 用意に持ち運びができる金属製ケージの一方に出口が開放されていて、奥に入るほど狭くなり出にくくなるようなトラップ(逆のぎトラップ)を設置したケージを使用すると、機動力を持たせることができる(写真5.13)。
 筆者らが試作した長さ870mm×巾600mm×高さ400mmのケージの場合、最高15羽を一度に捕獲可能であった。開放トラップは特に逃げやすいので、入ったドバトは2〜3時間以内に他に移す必要がある。
 工場地帯のドバトに対してこのトラップを餌と水を補給しながら1カ月間放置した時のドバトのケージ内羽数の経時変化を図5.6に示す。この場合、5羽以下のドバトが出入りしていた。農村部では東京都江戸川区葛西のつまみ菜被害農家で2カ月間に87羽が捕獲されている。

図5.6 逆のぎ付ケージトラップのケージ内羽数経時変化 (餌と水は常に補給)

図5.6

ロ.捕獲小屋
 神奈川県自然保護課で推薦している捕獲小屋は長さ1500mm×巾1800mm×高さ1800mm(前)・1600mm(後)のもので、地上部分に市販のアルミ製トラップバーを取りつけ、入口には上り坂を設置し、屋根と内部に止まり木を3カ所渡すようになっている。
 筆者らは、巾が1000mmのものでほぼ同様のサイズの鉄骨製捕獲箱を作製し、前面のトラップバーの高さを5段階、すなわち地上からトラップの取りつけ位置を195mm、360mm、650mm、1105mm、1270mmに交換できる小屋(写真5.14)で工場地帯のドバトを捕獲した所、下より2段目(360mm)の位置が多く入り、逃げにくいことが解かった(図5.7)。トラップの変換は下より2段目の1より番号順に行った。
 ドバトがケージ内に入って来る必要条件として明るさ、餌、おとりについて同様の捕獲箱で検討した所、餌とおとりがあるとよく入ることがわかった(写真5.15、表5.5)。暗くしておとりを入れたままにして餌を給与しておくと、2週間目で12羽入っている(図5.8)。
 農村部においては、同様の捕獲箱を神奈川県厚木市中荻野と東京都江戸川区葛西の畑地に設置した所、厚木では設置場所や時期に問題があり、おとりも使わなかったので捕獲に成功せず、江戸川区では1978年9月22日に設置して5日後に6羽入った(写真5.16)。しかし、捕獲小屋が猫に襲われ試験を中止した。畑地では猫対策が必要であろう。
 鉄骨製の捕獲小屋では蝶ボルトで1人でも組立て可能にし、移動に便利なように作るとよい。

図5.7 トラップ位置の高さと捕獲羽数 (番号はトラップ位置の変化順序)

図5.7


図5.8 捕獲箱に必要な条件 (おとりを2羽入れたままの状態での捕獲箱内羽数経時変化)

図5.8


表5.5 捕獲箱に必要な条件 (明るさ・えさ・おとり)

テスト 条件 判定
明るさ NO
え さ NO
おとり NO
明るさ NO
え さ YES
おとり NO
明るさ NO
え さ YES
おとり YES
I
1週間
0 4
(6日目)
えさ
II
2週間
0
(3週間)
   0*    1**
(4日目 1)
(13日目 1)
12
おとり 2
えさ

おとり

* 捕獲箱周辺に餌となるものが落ちている場合
** 捕獲箱周辺に餌となるものがない場合

ハ.マルトトラップ
 筆者らが試作した鉄骨製の捕獲小屋(写真5.17)で、長さ1700mm×巾1600mm×高さ1700mm(前)・1550mm(後)のもので天井部分中央部を横に内径360mmのスリットを設け、スリットには縦に板を一定間隔にとりつけ賽銭箱のような入口になっている。
 縦板にはピアノ線を下向きに取りつけ、縦板の間隔もカラス用とドバト用に板を移動させることにより可能にしている。小屋前面には前述の逆のぎ付ケージトラップ状のものを接続し、小屋内にはトラップバーを設置し二重トラップになっている。逆のぎ付ケージトラップの上部にはさらにトラップバーが設置してあり、内部には移動可能な止まり台が設置してある。前面を使用しない場合はめくら板に変えることができ、逆に天井板を使用しない時はスリットをとりはずしめくら板に変え、屋根を据え付ける。蝶ボルトで3名程度で組立て可能であるが鉄骨製のため重いのが難点である。
 これは西ドイツの W. Keil キール 氏考案のトラップ Australian Crow Trap or Multiple Crow Trap を改良したものである。

4.その他(銃器、トラバサミ)
 銃器は狩猟免許を持ち、銃器を扱える経験者に依頼する。これらは使用に際し人畜や他の野生鳥獣に2次的被害が発生しないよう注意する必要があり、トラバサミは目的以外の鳥が捕獲される恐れがあるので、使用は薦められない。



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