月別アーカイブ: 2012年6月

カンムリツクシガモの第1標本

山階鳥類研究所には、世界に3点しかないカンムリツクシガモという希少なカモ類の標本のうちの2点があります。この鳥は、かつてユーラシア大陸東部に生息しており、現在は絶滅した可能性が高いと考えられている美しいカモで、世界の3点の標本のうち残りの1点はデンマークの博物館にあることが知られていますが、日本の鳥類研究者で、デンマークの標本を見たことがあるという話は聞いたことがありません。
アメリカ合衆国で開催された、自然史標本の保存に関する国際学会大会(The 27th Annual Meeting of the Society for the Preservation of Natural History Collections (June 11-16, 2012, Yale University)に出席した小林さやか専門員は、同学会に参加していたデンマーク国立自然史博物館(Zoological Museum, Natural History Museum of Denmark)のヤン・クリステンセンさん(Jan Bolding Kristensen)と面識ができ、この標本についてお話を伺うことができました。
crested_shelduck小林専門員が帰国後電子メールでやりとりし、先方の博物館が所蔵する、カンムリツクシガモの標本とクリステンセンさんの画像を送っていただきましたのでブログでご紹介します。
このコペンハーゲンの標本が、学問の世界にこの鳥が初めて知られた「第1標本」ですが、これは当初雑種と考えられており、山階鳥類研究所所蔵の第2標本が見つかってから、江戸時代の絵図にもこの鳥が描かれていることがわかり、また第3標本も見つかって、雑種ではなく新種であると判明したというエピソードがあります。
small_2日本でこの鳥の第1標本の画像が紹介されたのはことによると初めてかもしれません。山階鳥類研究所所蔵のカンムリツクシガモの第2、第3標本の画像もご紹介し(右の写真、奧が第2標本)、贅沢なページにしてみましたのでお楽しみください。
「所蔵名品から第5回 世界に3点しかない絶滅鳥-カンムリツクシガモ(ガンカモ目ガンカモ科)-」はこちら。上で簡単に説明したカンムリツクシガモの発見と命名のエピソードについてより詳しく紹介しています。

自然史標本の国際学会で、震災後の標本レスキューなどについて発表しました

iwami_poster_36月11〜16日にアメリカ合衆国コネチカット州ニューヘイヴンにある、イェール大学ピーボディ博物館で開催された自然史標本の保存に関する国際学会の年次大会に、岩見恭子、小林さやかの2名の所員が参加しました。
kobayashi_poster_3岩見研究員は、東日本大震災の津波で破壊された鳥類標本の救出について、また小林専門員は、山階鳥類研究所の標本コレクションの管理と収集活動についてポスター発表しました。学会大会では、自然史標本の分野の最先端の成果や技術について情報収集するとともに、海外の標本担当者ほかと交流を深めることができたようです。
ogasawaramashiko2人はこの学会の終了後、世界最大級の鳥類標本コレクションを所蔵するアメリカ自然史博物館(ニューヨーク)に足を運び、標本収集管理や修復の現状について研修しました。
※学会の英文名称と発表タイトル等はつぎのとおりです。
The 27th Annual Meeting of the Society for the Preservation of Natural History Collections (June 11-16, 2012, Yale University, New Haven, Conneticut USA)
Iwami, Y., Kumagai, M., Tomioka, N., and Yamasaki, T.
Salvage and restoration activity for the bird specimens destroyed by tsunami in the Tohoku Earthquake, Japan.
Kobayashi, S., Yamasaki, T., Saitoh, T., Asai, S., and Iwami, Y.
The bird collection and the management at the Yamashina Institute for Ornithology: Overview.
(この学会参加は、コロラド大学自然史博物館・コレクションマネージャーで同学会の評議員でもある蔭山麻里子さんの勧めで実現しました。また、山階武彦助成事業から助成を受けています)
※画像は、(上)学会会場のポスターの前の岩見研究員、(中)小林専門員と蔭山麻里子さん(向かって左)、そして、(下)アメリカ自然史博物館希少鳥類コレクション所蔵の、小笠原の絶滅鳥で日本には標本のないオガサワラマシコを手に取る小林専門員です。
「山階鳥類研究所の標本について」はこちらをご覧ください。
山階鳥類研究所標本データベースはこちらをご覧ください。

鳥類標識調査の合計放鳥数が500万羽を越えました。生物多様性センターのウェブサイトで成果が見られます

2s鳥類標識調査は野鳥に番号付きの足環などをつけて放し、再捕獲や観察をすることで、渡りや寿命をはじめとする情報を収集するもので、データの解析によってさまざまな生態が明らかになり、その成果は鳥類の保護施策の立案のためにもたいへん有用です。
日本では1924年以来、途中戦争の影響による中断があったものの、約90年の歴史があります。現在は山階鳥類研究所が環境省の委託事業として実施しています。
この鳥類標識調査で、継続的にデータが蓄積された1961〜2011年の合計放鳥数が500万羽を突破しました。このことを機に、調査の成果がパソコンからグーグルアース上で閲覧できる、鳥類アトラスweb-GIS版が環境省生物多様性センターのウェブサイトとして公開になりました。
尾崎清明副所長・保全研究室長は、500万羽突破について「この数字は、多くの関係者の努力で、長期間にわたって継続してきたことの成果です。世界的には十数番目の達成になり、アジア諸国では例のない数字です。長期間にわたるデータの大半がデジタル化されているので、今後さまざまな分析に活用できます。さらに調査を継続発展させ、鳥類の保全に役立つ基礎データとしてゆきたいと考えています」と話しています。
※画像はさまざまな大きさの鳥類にあわせて作られた足環です。それぞれ鳥の体に負担にならない形状と重量に設計されています。
報道発表資料はこちらです。
環境省生物多様性センター 鳥類アトラスweb-GIS版はこちらです。
環境省生物多様性センター 鳥類標識調査ページのトップはこちらです。

6月のテーマトークは「日本の海鳥は今 〜繁殖地で見られた諸問題〜」(6月9日(土))です

onagamizunagidori山階鳥類研究所の所員が我孫子市鳥の博物館で出前トークをする、第2土曜日恒例の「テーマトーク」、6月は下記の要領で今週末です。全国の海鳥の繁殖地を調査している仲村昇研究員が、離島など、私たちがふつうは訪れることが難しい場所にある繁殖地で海鳥がどのように生活しているか、彼らがどんな問題に直面しているかをご紹介します。
第14回「日本の海鳥は今 〜繁殖地で見られた諸問題〜」
【講師】仲村昇 山階鳥研保全研究室研究員
【日付】6月9日(土)
【時間】13時15分~ ※30分のテーマトーク終了後、質疑応答の時間あり
【場所】我孫子市鳥の博物館 2階多目的ホール
【参加費】無料(入館料が必要です)
【定員】先着50名
【主催・問い合わせ先】
山階鳥類研究所(TEL. 04-7182-1101)、我孫子市鳥の博物館(TEL. 04-7185-2212)
画像は小笠原諸島北之島で営巣するオナガミズナギドリです。
山階鳥類研究所のイベント情報はこちらです。