2021年12月16日掲載
この調査は鳥獣保護法上の捕獲許可を得て実施しています。このたび、標識放鳥後まもなく、一部の個体の標識が外されていることが確かめられました。標識が外されることで、基礎的な生態の情報を得る調査目的が達せられなくなることは大きな問題です。また、許可なくコブハクチョウを捕獲することは、それがたとえ一時的なものであっても鳥獣保護法違反となり処罰されます。違法な捕獲や標識の取り外し行為を目撃された方はご一報いただけますようお願いいたします。また、引き続き調査の円滑な遂行にご協力いただけますようお願いいたします(2021年12月30日)
手賀沼に生息するコブハクチョウの移動や繁殖状況の調査のため、首環と足環の標識調査を行っています。
首環の標識によって、手賀沼のコブハクチョウがどこに飛んでいくのか(あるいはずっと手賀沼周辺に留まるのか)、沼の中でどの場所を餌場として使っているのか、何歳から繁殖を始めるのか、といった基礎的な情報を得ることができます。これらの情報は、日本の野外に逃げ出してしまったコブハクチョウに、今後どのように対処していくかを考えるうえで大変重要なデータになります。
もし、標識された個体を手賀沼以外で観察された場合には、以下の連絡先までお知らせいただければ幸いです。
<これまでの調査内容>
2018年3月に3個体、2021年12月に11個体に標識を行いました。
<首環標識調査について>
鳥類に首環や色足環などの標識をつけ個体識別をすることで生態を調査する手法は、国内外で長年、多数の調査実績があり、その安全性や有用性が確認されています。これまでに、繁殖地、渡りの中継地、越冬地などの位置情報や個体の採餌行動や繁殖など生態に関する重要な知見が得られており、個体数の減少が懸念されている種や個体群の保全対策立案にも役立っています。
ハクチョウ類やガン類を対象とした首環標識調査の歴史は古く、アメリカなど諸外国では、1950年代よりカナダガンやコクガンなどに標識し調査した記録があります。イギリスでは、1978-1982年には、650羽以上のコブハクチョウに首環をつけ、その後の行動の観察や移動の追跡調査が実施されました。その際、鳥に対する影響も調査され、首環の有無は採餌方法に多少の違いが見られたものの、体重や繁殖成績には影響がなかったことが確認されています。また、首環によるけがや羽繕い行動の違いも観察されなかったとのことです。
首環標識調査は、国内でも1970年代から調査が実施されています。例えば、1974年から80年代前半にはコハクチョウの国際的な調査が行われ、52羽の幼鳥がシベリアチャウン湾の繁殖地で標識され、そのうち40羽が冬に日本列島の越冬地で確認され日本で越冬するコハクチョウの繁殖地や渡りの経路が明らかになりました。
コブハクチョウについては、国内では、80年代後半に北海道ウトナイ湖で増えていた個体群を中心に首環を含めた標識調査が実施され、北海道ウトナイ湖と茨城県霞ケ浦地区を季節ごとに移動する個体が確認されました。しかし、コブハクチョウの標識調査はここ30年ほど実施されておらず、全国で飛躍的に個体数が増加し各地で農業被害や生態系への影響が懸念されている近年において、各地に定着したコブハクチョウの分散や生活史など基礎的な生態は分かっていないことが多い状況です。