標本・図書

2023年11月15日更新

標本

山階鳥類研究所には、剥製標本・骨格・巣・卵・液浸標本などの、鳥類の標本約8万点を所蔵しています。数の上でもっとも多いのは研究用剥製標本です。

 コレクションは、創設者の山階芳麿博士ほか日本の代表的な鳥類学者の収集品、および交換・購入等によって集められた内外の標本からなっています。現在は、拾得された斃死体等を受入れて標本を作成しコレクションの充実を図っています(標本の収集・管理)。世界中の代表的な種類が網羅され、特に東アジア・太平洋地域の充実したコレクションは、世界でも指折りのものです。学術的に貴重な標本も多く、すでに絶滅した鳥や希少な鳥の標本や、種の記載の基準となったタイプ標本も含まれています。

標本は利用の便をはかるために整理作業を続けており、研究者の利用に供されているほか、国内外の研究機関からの問い合わせ等にも応じています。

2009年からは標本データベースを公開しています。

>> 標本・図書の利用方法
>> 標本データベース

鳥類標本

標本室。世界でも指折りの充実した鳥類標本を揃えている。

標本の収集と管理

以前は鳥を採集して標本を作っていましたが、現在では主に拾得された斃死体や、動物病院などで死亡した鳥を受け入れて標本を作っています。受け入れた資料には番号をつけ、発見した年月日・場所・入手経路などを記録します。資料は解剖して性別や年齢などをチェックし、状態によりどのような標本にするかを決め、所内で処理できないものは外注します。できあがった標本は真空燻蒸し、一つ一つにラベルを付けます。ラベルには受入番号・種名・性別・年齢・採集場所・採集日などを記入し、分類順に標本棚に収納します。標本室は湿度・温度を一定に保つため空調を行い、防虫・防カビのために各棚に薬剤を配備しています。標本室には、紫外線による褪色を避けるため窓が一つもありません。標本は管理さえよければ半永久的に保存できます。現に山階鳥研の標本の中には百年以上前のものが多くあります。カビなどを防ぐため、標本室への立入りは必要最少限にとどめています。鳥類研究者の閲覧希望には応じていますが、一般の方の見学はご遠慮願っているのもそのためです。

研究用の標本とは?

鳥の剥製というと、博物館などで見かける、鳥が木に止まったようなものを想像されるでしょう。このような標本は主に展示に使われます。展示用剥製は、その鳥がどんな姿をしていたかを知るのには役立ちますが、保管に場所を取りますし、体の各部の大きさを測定したり、いくつもの標本を比較するには不向きです。このため、研究用には研究用剥製(仮剥製)が使われます。研究用剥製は、内臓や筋肉・骨などを抜き、中に薬品を塗った上で綿などを詰め、鳥がゴロンと横たわった形に作ったものです。作成方法が比較的易しく、保管にも場所を取りません。山階鳥研が所蔵する剥製の大部分は、この研究用剥製で、これ以外に展示用剥製や卵・内臓・巣・骨格などの標本があります。

研究用剥製と展示用剥製

標本の利用

標本はさまざまな分野の研究者に利用されます。外部形態を比較して分類を研究したり、野外における識別のために標本を調べたりします。鳥の標本のまとまったコレクションを持っているのは、日本では山階鳥研だけといってもよく、このため、毎年多くの研究者がこれらの貴重な標本を調べるために山階鳥研を訪れます。時には、海外の研究者からの依頼によって、海外に標本を貸し出すこともあります(標本の利用方法はこちら)。

標本の整備

鳥は、同じ種類でも性別、年齢、地域によって羽の色や形態が違うのが普通です。ですから、研究のためには、なるべく多くの個体の標本を集めることが必要となります。現在山階鳥研には、8万点という膨大な数の標本が保管されています。このように数多くの標本を研究のために十分に利用してもらうには、標本が種類ごとに整理されていることが必要です。しかし、過去の努力にもかかわらず、未だにそれが完全ではありません。数年前から、分類学者の定めたリストの順に標本を並べ替える作業をおこなっています。また、コンピューターによる標本情報の管理システムを作成する仕事にも着手しています。

絶滅種・希少種の標本

山階鳥研には、絶滅鳥の代表として必ず紹介される北アメリカのリョコウバトやカロライナインコをはじめ、沖縄の森林に住んでいたリュウキュウカラスバトなど、いくつかの絶滅鳥の研究用標本があります。すでに地球上から姿を消してしまったこれらの鳥の標本は2度と手に入らず、かけがえのない重要なものです。また、生息数が少なく絶滅の心配のある鳥の標本としては、サハリンで繁殖するカラフトアオアシシギや、沖縄の森林に住むキツツキの一種ノグチゲラなどがあります。これらの鳥も新たに採集することが難しいので、既存の標本が持つ研究上の価値は、極めて高いといわねばなりません。

カンムリツクシガモ

世界でも非常に貴重なカンムリツクシガモの標本

タイプ標本とは

新種を発見して名前をつける際には、そのもとになった標本をタイプ標本(模式標本)として指定しなければなりません。そうすることにより後の研究で分類に疑いが生じたり、分類が変わったりした時でも、名前の混乱を最小限に食い止めることができるのです。所蔵する博物館や研究機関などは責任をもってタイプ標本の管理をすることが、動物学者の間の国際的取り決めによって求められています。

山階鳥研にはヤンバルクイナ、ヒメシロハラミズナギドリなどの種と、数十点の亜種(種の下の分類単位)のタイプ標本があります。これらのタイプ標本は鳥の分類学の基準となるものであり、科学の世界全体の共有財産です。

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図書

図書室では鳥類学に関する国内外の専門学術雑誌や単行本など、広範囲にわたる文献を所蔵しています。その数およそ5万冊にのぼり、国内では鳥類学に関する蔵書数として他に類を見ません。

山階鳥研では日本の鳥類学の発展のため、関係図書の収集を意欲的に行うとともに、利用環境の整備をはかり、研究者等の利用に供しています。

これまでも、記念文庫目録や雑誌・単行本目録など、図書目録の刊行というかたちで情報を提供してきましたが、2011年2月にウェブサイト上で図書目録(OPAC)を公開しました。現在検索できるのは雑誌、単行本および論文別刷の一部ですが、今後、他の資料についても順次追加する予定です。

山階鳥研の図書資料が、鳥学関係者はもとより、鳥や自然に興味を持つ多くの方々の知の探求の一助となることを願っています。

この図書データベースは、文部科学省科学研究費補助金特定奨励費の交付を受けて運用されています。

>> 標本・図書の利用方法
>> 図書目録(OPAC)

書庫

国内で随一の鳥類学に関する蔵書数を誇る図書室

山階鳥研図書の構成

山階鳥研究の図書の多くは、創設者山階芳麿博士が収集した文献や、鷹司信輔・黒田長禮両博士をはじめとする鳥類研究者や一般の方々、また関係機関や出版社などからの寄贈図書を基礎に構成されています。ここでしか見ることのできない国外の学術書や、石版手彩色図譜等の貴重図書など、今では入手困難な貴重な資料も含まれています。

分類学、生態学などの各学問分野に関する専門書や国内外の学会や博物館から出版される雑誌等を購入・寄贈、山階鳥類学雑誌との交換によって収集し、さらなる充実を図っています。

山階鳥研の所蔵雑誌

山階鳥研の自然誌研究室は現在約3,500タイトルの雑誌を収蔵しています。これらのほとんどは、鳥に関する学術雑誌ですが、各地域の野鳥観察団体や鳥類保護団体などの発行する機関誌やニュースレターなども数多く所蔵しています。

山階鳥研の単行本

山階鳥研は、約27,000冊の単行本を所蔵しています。これらの図書のほとんどは、鳥に関する専門書や鳥類図鑑ですが、自然保護関連の図書や美術書など、鳥に関するさまざまな分野の図書も含まれています。

図書の管理と利用

図書室では鳥に関するあらゆる資料を収集し、有効に利用できる管理体制を整えようと努めています。現在、山階鳥研の書庫は閉架式となっているため、書庫の中に入って自由に本を手にとって見ることはできません。しかし、可能な限り研究者の要望に応じて便宜を図っています。  山階鳥研では、鳥類研究者をはじめ、生き物や自然に興味を持つ人々の一助となる図書室を目指して活動しています(図書の利用方法はこちら)。

山階鳥研の貴重図書

山階鳥研には、主に19世紀から20世紀の初めにかけてヨーロッパで発行された石版・銅版手彩色の鳥類図譜が、約百点所蔵されています。19世紀前半は博物学の黄金期ともいわれ、多くの生物図譜が出版されました。しかし、石版や銅版手彩色の図譜は完成までに大変な労力や技術を要するため、発行部数も数百部と限られており、発行当時から大変高価でした。現在では、これらの図譜の多くが戦争や災害等で消失しています。山階鳥研にある貴重図書は、その意味でも貴重な文化的遺産といえるでしょう。これらの図書は鳥類学上の価値があるだけでなく、大量印刷の技術が未熟だった時代の博物学がどのように行なわれていたのか、博物学の歴史や発達を研究するための資料としても重要です。また、美術的にも製本技術の点でも大変価値が高いものです。これらの図書を消失させることなく次代に引き継いでゆくことも、山階鳥研の責務の一つと考えています。

鳥類図鑑

19世紀に出版された貴重な図鑑も所蔵する。
(英国 の鳥類学者・ジョン=グールド著の鳥類図鑑)

山階鳥研の文化資料

山階鳥研は、創設者山階芳麿博士や日本の代表的な鳥類研究者の研究論文や図鑑などに使用された画や写真、さらに研究ノート、書簡などさまざまな資料を所蔵しています。現在、これらの資料についても整理を進め、山階鳥研のウェブサイトでは以下の資料を公開しています。

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