2013年7月4日掲載
(2023年4月24日訂正)
カラーリング(色つきのプラスチック製足環)はアホウドリ、トキ、クロツラヘラサギなどの希少種をはじめさまざまな野生鳥類の渡りや生態の調査研究に使われていますが、どんなふうに作られているかは多くの方がご存じないでしょう。ここではカラーリングのできるまでを工場見学していただきます。
『山階鳥研ニュース』 2012年3月号を一部加筆修正
2011年秋、東大阪市にある(株)ミズホコーポレーションを訪ねました。
こちらの会社は、工作機械によるプラスチックの加工や印刷を、いわゆる「多品種少量生産」で手がけており、山階鳥研からはさまざまな鳥類用のカラーリングの刻印をお願いしています。
カラーリングの素材はABS樹脂と呼ばれる熱に強く曲げにも耐えるプラスチックで、2層構造になったアメリカ製の材料を使っています。
今回刻印をお願いしたのは、山階鳥研で保護活動を行っているアホウドリのヒナに装着するものです。山階鳥研の出口研究員がファックスで送った指示をもとに、職員の松尾さんがパソコン上で、文字、高さ、幅、間隔等を指示します。
奥の工作機械が2層のプラスチックのうち、赤い層だけを削って文字を刻印してゆきます。
文字を塗装するのと異なり、はげ落ちたりしないのがこの方法の長所ですが、じょうずに赤い層だけを削るための機械の調整は慣れが必要なようです。
刻印ができたら大型のカッターで裁断します。
あとは丸めるだけのプラスチック板になりました。
2012年1月、ここは山階鳥研、保全研究室の台所です。小笠原へ出張前の出口研究員がなにやら煮ています。
コンロにかけた鍋で暖めているのは、ミズホコーポレーションから送られてきた刻印・裁断済みのプラスチック板です。
熱によって柔らかくなり、冷やすと固まる性質を利用して、板状のプラスチックを丸めます。熱しすぎると後でもろくなるので、手早く作業するのがコツだそうです。棒に巻き付けて丸めた板を金属製の輪に押しつけて形を整えます。
水で冷やすとできあがりです。
5月の小笠原へと舞台は移ります。今回作ったカラーリングは、巣立ち前のアホウドリのヒナに、金属リングとともに装着されます(カラーリングによる調査では、耐久性などの理由から、多くのばあい環境省の鳥類標識調査事業のための金属リングを併用します)。
下の個体は、2011年5月に撮影した、カラーリングを装着されこれから巣立とうという「Y56」です。今回作ったカラーリングも、今年5月にヒナに装着されます。数年後に繁殖のために戻ったときには、どの鳥が戻ったのか、どの鳥とどの鳥が番いになったのかなどの情報を与えてくれることでしょう。
(事務局 広報主任・自然誌研究室 専門員 平岡考)
鳥に装着する足環には大きく分けて2種類あります。ひとつは耐久性に優れた金属リング。もうひとつが、再捕獲せずに個体識別のできるプラスチック製のカラーリング、カラーフラッグです。鳥の大きさ、形状、生活場所などにより、それぞれに合った材質・大きさの足環を装着しています。
※いずれのリングも鳥の体に負担にならない形状と重量に設計されています。
カラーリングのほかに、野外観察を想定して装着されるものに、シギ・チドリ類やアジサシ類に使われ、場所ごとに色の組み合わせを変えて使われるカラーフラッグや、ガン類やハクチョウ類に装着する首環、猛禽類などの翼に装着するタグと呼ばれるものもあります。これらを総称して、「カラーマーキング」と言いますが、カラーマーキングでは、調査者に観察の記録がフィードバックされることが、生態の解明につながります。カラーマーキングされた鳥を観察されましたら、山階鳥研までご一報お願いいたします。
カラーマーキングを含む鳥類標識調査については「渡り鳥と足環」ページも合わせてご覧ください。