2013年7月4日掲載
標識調査はカスミ網などを使って、鳥類を捕獲し、個体識別用の足環を装着して放鳥するもので、始まった当初は、渡り経路や寿命の解明が主な目的でした。その後、欧米では1980年代後半から、標準化された標識調査による鳥類の繁殖モニタリング調査が国単位で始まりました。この調査によって、個体数の変動ばかりでなく、一般的なセンサス調査(観察により個体数を数える調査)では得ることが難しい出生率、成鳥の生存率などの指標が得られ、鳥類の個体群動態(数の増減の趨勢)について広域的に把握できるだけでなく、その変動がどのような理由によっているかの考察も可能になります。
特に北アメリカのMAPSプログラム(Monitoring Avian Productivity and Survivorship 鳥類の生産性と生存のモニタリング)はチェルノブイリの原発事故をきっかけにして開始され、現在ではアメリカの400カ所以上で実施されています。
日本では従来この種の調査を実施していませんでしたが、福島第一原子力発電所の事故で放出された放射性物質が野生鳥類に短期的ならびに長期的にどのような影響があるのか、モニタリングの体制づくりが急務と考えられました。また原発事故のことを離れても、野生鳥類の保全の基礎データとしてこの調査は有意義なものと考えられます。
調査は、5月下旬から8月中旬に、10日単位の期ごとに1回ずつ、調査時間とカスミ網の枚数を定めて、北海道1、福島県3(高線量地域1カ所を含む)、新潟県1、鳥取県1の合計6カ所で実施しました。捕獲される鳥類はおもにスズメ目に属する陸棲の小鳥類です。この調査はある程度長期間の調査が必要と考えられ、また調査地点も全国で増やす必要があり、詳細な分析は今後のデータの蓄積を待っておこなうことになります。
(『山階鳥研ニュース』 2013年5月号より)