鳥類標識調査

仕事の実際と近年の成果

2017年12月18日掲載

最長寿記録更新23年11ヶ月 ベニアジサシとエリグロアジサシ

尾崎清明副所長は7月に沖縄県渡嘉敷村慶伊瀬島(とかしきそんけいせじま、通称チービシ)でアジサシ類の調査を実施し、足環装着後、 23年11ヶ月経過したベニアジサシとエリグロアジサシをそれぞれ1羽、再捕獲しました。これにより両種の日本での最長寿記録が更新されました。両種とも環境省レッドリスト(2012)の絶滅危 惧種(絶滅危惧II類)です。


長寿記録を更新したベニアジサシ(上、足環番号5A12445)とエリグロアジサシ(足環番号 5A08711)。いずれも今回、野外観察に適したカラーフラッグと、渡り経路の解明のためにベニアジサシにはジオロケータ、エリグロアジサシにはGPS ロガーを装着しました。来年帰還して再捕獲すれば越冬地や経路が判明するものと期待されます。

今回捕獲されたベニアジサシは、1993年7月28日に今回の調査地と同じ慶伊瀬島(けいせじま)ナガンヌ島で尾崎副所長によりヒナ(性別不明)のときに足環(5A12445)を装着されたものです。2017年7月5日に再捕獲され、23年11ヶ月経過後の再捕獲となりました。これまでの最長寿記録は21年5ヶ月でした。

エリグロアジサシは1993年7月27日に同じナガンヌ島でヒナ(性別不明)の時に足環(5A08711)を装着されたもので、2017年7月5日に再捕獲されましたので、同じく23年11ヶ月経過後の再捕獲でした。これまでの最長寿記録は、16年0ヶ月です。

野鳥に「しるし」をつける鳥類標識調査は、自然条件での野鳥の寿命を知るほとんど唯一の方法です。寿命のデータは、産卵数、巣立ち数、生残率などと並んで野生鳥類の個体群の特性を知るうえで極めて重要なもののひとつです。

繁殖個体数の減少が著しい琉球列島のアジサシ類

今回の調査は、公益信託サントリー世界愛鳥基金の助成を受けた研究プロジェクト「琉球諸島のアジサシ類の保全」の一環として行われました。琉球諸島の無人島で繁殖するアジサシ類は繁殖個体数の減少が著しく、特にベニアジサシの最大規模の繁殖地があった渡嘉敷村慶伊瀬島ではかつて最大4,300巣が記録されましたが、2000年以降は最大でも1,200巣に留まっており、全く営巣が見られない年もあります。この研究プロジェクトは、これらのアジサシ類の繁殖状況や阻害要因、渡り経路等の情報を把握し、これらを総合し、減少要因を解明して、保全策を提案しようというものです。

このためにこのプロジェクトでは慶伊瀬島に繁殖期を通じて渡って繁殖状況等を調査するとともに自動撮影カメラでも継続的に記録をとりました。さらに、繁殖個体に渡り経路追跡のためのGPSロガー(注1)4台とジオロケータ(注2)44台を装着しました。さらに、沖縄県自然保護課と沖縄野鳥の会と共同で、慶伊瀬島にあるレジャー施設の職員を対象にアジサシ類保全上の留意点をレクチャーし、マスコミ関係者を繁殖地周辺に案内して、保全の重要性をアピールしました。

慶伊瀬島の海岸に群れるアジサシ類

(注1)GPSロガー=カーナビゲーション等にも使われるGPS(全測位地球システム)の人工衛星の信号によって得られた位置情報を記録するデータロガー(記録装置)。鳥類に装着し、一定期間の経過後、再度捕獲して移動経路のデータを取り出します。

(注2)ジオロケータ=明るさを記録するデータロガー(記録装置)の一種で、日長と南中時刻のデータを記録します。GPSロガー同様、再度捕獲してデータを取り出し、移動経路の緯度経度を推定します。

山階鳥研NEWS」2017年11月号より

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