2020年12月17日掲載
野鳥に番号付きの足環をつけて生態を調査する、鳥類標識調査における最長の生存期間を、吉安京子保全研究室専門員(現フェロー)らが取りまとめて発表しました。これは鳥の寿命に関する重要なデータです。日本の鳥類標識調査が戦後再開された1961年から、最近の2017年までの記録から取りまとめたものです。
鳥類標識調査は野鳥を捕獲して番号付きの足環をつけて行う調査で、ここからはいくつものデータが得られますが、中心的な目的は、時間が経ってからその鳥が観察・撮影や死体などによって再度確認(回収)されることで鳥の生態のデータを得ることにあります。日本では山階鳥研が環境省の委託によって行なっています。
標識調査で得られるデータとしていちばん分かりやすいのは移動、渡りの解明ですが、そのほかに得られる重要なデータのひとつに寿命があります。正確には、足環をつけてから回収までの経過期間で、最初に足環をつけたときにヒナで、かつ死亡して回収されたのであればこれは寿命と同じ値であり、足環をつけたとき成鳥であるか、生きて回収されて再度放鳥されたのであれば、この期間よりさらに長く生きたことがわかります。
鳥の体には年輪のような、それを見さえすれば寿命がわかるような指標は見つかっていないことから、鳥の寿命は、足環のような「しるし」をつけて、次に見つかったときの経過時間を計るしか知る方法がありません。
今回の取りまとめでは、合計289種について、最長と二番目に長い生存期間が一覧で示してあります。このうち、282種が日本産鳥類に関するものです(残りは7種は、日本の鳥類標識センター(山階鳥研)が関与して、外国で足環をつけて外国で回収された例となっています)。
寿命とは、生まれた鳥がどれだけの期間生きるかということですが、これには複数の意味があります。ひとつはその鳥が、病気にもならず、捕食動物にも襲われず、餌不足や悪天候にあうこともなく、理想的な条件のもとで生きていたらどれだけ生きるかということです。これは「生理的寿命」と呼ばれ、種にもよりますが、人間が丹精して飼育した時の寿命に近いかもしれません。大切に飼育したスズメは、15年程度は生きることがあるそうですので、こういった値は生理的寿命に近いのでしょう。
これに対し、鳥が病気や捕食動物や、餌不足や悪天候などの自然の条件にさらされながらどれだけ生きるかという寿命もあります。これは「生態的寿命」と呼ばれ、平均値と最年長記録を考えることができます。
実は野鳥の、この生態的寿命の平均値はきわめて短いもので、ある地域で生まれたヒナの全部に足環をつけて調べてみると、スズメ程度の大きさの小鳥では1年未満であるのが普通です。
鳥類標識調査として山階鳥研で現在行っているものはこのように地域全体のヒナに足環をつける研究ではありません。標識調査でわかるのは、生態的寿命の最長記録です。今回のまとめから、いくつかの種のもっとも長い生存期間を表にしてみました。アオジのような、スズメほどの大きさの鳥でも、14年3ヵ月という記録があり、多くの個体は早く死亡するが、ごく限られた割合の個体が長生きすることがわかります。
野生の鳥では死ぬまで繁殖することが普通ですので、初繁殖の年齢や、一回の繁殖で育てる子の数とともに、寿命を知ることで、その種が環境の中でどんなふうなやり方で繁栄しているかを知ることができます。これを「生活史戦略」と言いますが、たとえば、ある種は相当数が死んでしまう(=寿命が短い)ことを予定してたくさんの子を産むという生き方で繁栄している一方、別の種は長生きして数少ない子を育てるやり方で繁栄しているということがわかるのです。
なお、ここで述べたように、野生の条件下では長生きする個体の割合はごく少ないので、回収例がたくさんないと、生態的寿命の本当の意味での最高値を知る手がかりを得ることができません。今回取りまとめた例でも、本当はもっと長生きする個体がいると推測されるが、回収の例数が少ないのでそういう長期間の生存のデータが得られていないのだろうと考えられる種も多数あります。引き続き調査を継続して、日本産鳥類に関する基礎データを蓄積することが必要です。
ここで紹介した生存期間のまとめは、次の報告で発表されました。
吉安京子・森本元・千田万里子・仲村昇(2020). 鳥類標識調査より得られた種別の生存期間一覧.山階鳥類学雑誌.52(1): 21-48.