2021年3月10日掲載
近年eBirdなど市民科学によって、世界中の鳥の観察データが、急速に蓄積されています。そのデータと長年の標識調査や、ジオロケータによる追跡など複数のデータの組み合わせによって、小鳥類の渡り生態の解明を試みた論文が発表されました。この研究に参加した山階鳥研の尾崎副所長に、新しい手法について解説してもらいます。
鳥類標識調査(個体識別の足環を装着して、移動や年齢を調べる方法)では、回収記録(再捕獲や死体発見)によって個体毎の詳細な移動が判明しますが、回収される確率は高くなく、小鳥類では約0.3%(カモ等狩猟鳥の含まれる非スズメ目では1.8%)に留まります。近年開発されたジオロケータ(注1)は、鳥が同じ場所に戻ってくる習性を利用して再捕獲率を高め、捕獲に成功すれば長期間の継続的な移動の記録を入手できます。ただし、機材の費用がかなり掛かります。
一方、eBird(注2)で集められた季節毎の観察記録は、捕獲を伴わないので入手は容易ですが、亜種の違いや年齢、性別等の詳細な情報を得ることは困難です。また、正確さに劣ることもあり、例えば沖縄島にしかいないはずのヤンバルクイナやノグチゲラの記録が奄美大島にもあるなど、間違いも一部混在しています。
論文(注3)では、これらの異なる手法で得られたデータの関連性を分析しました。対象としたのは、シマアオジ、ノゴマ(図1)、シベリアセンニュウ、ツバメ(図2)、コシアカツバメ、コウライウグイス、ノビタキ、コムクドリの9種類の小鳥類です。その結果、越冬期の観察記録は手法間の関連性が高いが、春秋の渡り時期では低いことが判明しました。そして異なるデータを組み合わせることで、小鳥類の繁殖期と越冬期の分布と、それらを結んだ渡りの全体像を理解するのに役立つことが示されました。種毎の移動に関しては、ノゴマとツバメについて、中国本土上と太平洋の島にそった2つの渡りルートを特定することもできました。
最新技術を使った渡りの調査は、北米を中心に超小型電波発信機を小鳥類に装着し、約千か所に設置された受信基地で鳥からの電波を受信することで、回収率を高める調査(MOTUS野生生物追跡システム https://motus.org/)が進められており、ドイツでは人工衛星と専用の小型発信機で渡りを追跡する計画(プロジェクトICARUS https://www.icarus.mpg.de/en)がいよいよ本格的に開始されます。今後は、日本周辺でもそれぞれ長所と短所のある様々な調査手法を組み合わせて、渡り鳥の生態解明が進むものと期待しています。
(文 おざき・きよあき)
(注1)ジオロケータ:組み込まれた光センサーによって日の出・日の入りの時刻を記録する装置で、回収して緯度・経度のデータを推定する。
(注2)eBird:コーネル鳥類学研究所が主催する野鳥データベース構築プロジェクトで、世界中で市民が鳥を観察して報告する。すでに3億5千万レコード(2003〜17)が集められている。
(注3)Heim, et al. 2020. Using geolocator tracking data and ringing archives to validate citizen-science based seasonal predictions of bird distribution in a data-poor region. Global Ecology and Conservation, 24.