鳥類標識調査

仕事の実際と近年の成果

2022年5月12日掲載

絶滅危惧種のガン類 カリガネの渡りルート追跡に日本で初めて成功しました

山階鳥研と雁の里親友の会(事務局長:池内俊雄)は、絶滅危惧種のガン類であるカリガネ1個体を発信器によって追跡し、宮城県の越冬地からロシア北極圏に渡り、翌年秋に再び越冬地に帰ってくるまでの経路を明らかにすることに成功しました。この発信器は、GPS衛星からの電波を受信し、位置情報を算出して、携帯電波網で送受信するものです。日本でカリガネを発信器で追跡し渡りルートを解明したのは初めてです。

本研究は地球環境基金の助成を受けて実施しました。

山階鳥研ニュース」2022年5月号より

カリガネは、ユーラシア大陸北部で繁殖し、ヨーロッパおよび東アジアで越冬する渡り性のガン類で、IUCN(国際自然保護連合)レッドリストでVU、環境省レッドリストで絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。近年、東アジアで越冬する個体群は、主要越冬地である中国・長江流域の生息地の劣化により、急激に減少しています。一方、日本で越冬する個体群は、2010年代から宮城県の越冬地で増加傾向を示しています。今後、カリガネの保全を考えていくうえで、増加している日本のカリガネの生態研究は欠かせないものとなっています。

写真 カリガネ

北極圏から帰還して宮城県で撮影された発信器付きカリガネ(2021年10月2日)(写真:狩野博美氏)

2020年12月に、宮城県内で1羽のカリガネを捕獲し、発信器を装着しました。2021年2月27日に越冬地を出発したこの個体は、青森県弘前平野、北海道石狩平野、サロベツを経由して、サハリン西海岸を北上し、その後オホーツク海を横断しカムチャツカ半島西海岸を北上しました。5月28日には、日本から約4,000km離れた、チャウン湾の東側のPegtymel川に到着し、1か月ほど滞在しました。その後、7月8日~8月13日までコリマ低地、8月23日~9月19日までチャウン湾西側の湿地に滞在しました。その後、9月19日に南下を開始し、シベリア内陸部をほぼ休息なしに南下し、ハンカ湖の手前で方向を変え、日本海に出ました。そのまま日本海を横断し、9月24日に秋田県八郎潟に到着、数時間滞在後、八郎潟を出発した2時間後の24日朝8時に宮城県伊豆沼に帰ってきました。

6月に滞在したPegtymel川は、カリガネの繁殖地である可能性が考えられます。しかし、本個体は捕獲時にペアになっていない単独個体であったこと、Pegtymel川には1か月程度しか滞在していないことから、この個体は繁殖していないか、もしくは繁殖に失敗したと考えられます。また、7~8月に滞在したコリマ低地は、1か月以上にわたって狭い範囲を移動していたことから、羽の生え変わりをおこなう「換羽地」である可能性が考えられます。

図 カリガネの渡りルート

発信器追跡を行ったカリガネの渡りルート。

この研究に携わった澤祐介 研究員は、「新知見が得られて興奮しているが、1例であることもあり、中国で行われた先行研究との比較も含めて、東アジアの個体群の渡りの全貌を明らかにするためにも、今後追跡の例数を増やすとともに、平行して現地調査も行うことが必要だ」と話しています。

山階鳥研は本件について2021年11月に報道発表をしました。報道発表資料はこちらからご覧ください。

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