研究・調査

2014年12月24日掲載

金網と巣箱で海鳥を守る
〜岩手県宮古市日出島のクロコシジロウミツバメの保全〜

岩手県の三陸沿岸の小島に、環境省レッドデータブックで絶滅危惧IA類(絶滅していない中ではもっとも危惧されるカテゴリー)に該当する小さな海鳥が繁殖していることはあまり知られていないかもしれません。佐藤研究員がこの海鳥の保全について紹介します。

山階鳥類研究所 保全研究室 佐藤文男

クロコシジロウミツバメはウミツバメ科の小型の海鳥で、我国で唯一岩手県沿岸の小島で繁殖し、宮古市沖に位置する日出島(ひでしま)はその最大の繁殖地です。この鳥は体重50グラムに満たないヒヨドリ程の大きさで、地中の巣穴に毎年1卵を生み、30年近くも生きます。筆者は1975年から日出島に通い続け、本種の標識調査を行い、その生態を観察してきました。

写真

クロコシジロウミツバメ

オオミズナギドリの増加でウミツバメが危機に

日出島の本種の生息数は1973年の環境庁の調査で、7,860羽が報告されています。しかし、1980年代に入ると、体がひとまわり大きい海鳥で、同じく地面に巣穴を掘るオオミズナギドリの繁殖数が急増し、本種の繁殖環境は著しく破壊され、生息数が激減してしまいました。島全域のオオミズナギドリとウミツバメの巣のカウント結果は表1のとおりです。オオミズナギドリの巣の密度は、1巣/㎡以上がカウントされており、ウミツバメの減少の原因は、オオミズナギドリの巣密度の増大によって、島全域の地面が掘り返され、これにより林床植生が破壊され、ウミツバメが巣穴を掘ることのできる柔らかい腐葉土層が雨により流出したためと考えられました。この30年間に約30センチメートルの表土が失われ、根上がりによる倒木・枯損が目立つようになったのです。オオミズナギドリが生息する限り、失われた表土は再生せず、日出島で今後再びクロコシジロウミツバメが安定的に繁殖することは不可能となってしまいました。

種名/年1973199420062010
オオミズナギドリ8,300羽16,421巣18,026巣22,260巣
クロコシジロウミツバメ7,860羽2,206巣265巣63巣

表1 日出島におけるオオミズナギドリとクロコシジロウミツバメの生息数・巣数の変化

金網と巣箱で共存を図る

そこで筆者は、1984年から、繁殖地の一部の地面を、オオミズナギドリはくぐれないがウミツバメがくぐれる目合いの金網で覆い、金網で地面を保護することにより、本種の繁殖を安定化させ、クロコシジロウミツバメとオオミズナギドリが日出島で共存できる道を探ってきました。2010年から2013年の4年間、サントリー世界愛鳥基金の助成を受けて、金網被覆区域において、巣箱を埋設し、誘引のための本種の音声を流し、携帯端末巣箱内カメラを導入して積極的な営巣環境の保全を試みてきました。この結果、2013年には45箱中19個巣箱(42.2%)が利用され、巣立ちも確認されました。巣箱は繁殖期の直前に毎年維持管理を適切に行うことによって巣箱利用率をあげることができることがわかりました。

巣箱内のクロコシジロウミツバメと卵。巣箱は直径20センチメートルの硬質塩化ビニールのパイプで、底板と天板が取り付けてある。携帯端末巣箱内カメラ(画面上部)の映像を、山階鳥類研究所のパソコンでリアルタイムに見ることができる。

この研究結果は日出島のクロコシジロウミツバメとオオミズナギドリの共存において、生息地の一部の地面を適当な目合いの網で覆い、さらに、被覆した地面にウミツバメ用の巣箱を埋設し、誘引音声を流すことにより、クロコシジロウミツバメ個体群の消滅を防ぎ、将来にわたって一定の生息数を保つことが可能であることを示しています。今後は、より具体的な保全策を関係各所に提案してゆきたいと考えています。

(文 さとう・ふみお)

『山階鳥研ニュース』 2014年9月号より)

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