2021年3月4日更新
山階鳥研では、文部科学省科学研究費補助金(特定奨励費)を受けて、平成30(2018)年度から「日本最大の鳥学関連資料の維持管理・拡充・公開に関する研究事業」に取り組んできました。(注1)。そのあらましについてご紹介します。
山階鳥研は、前身の山階家鳥類標本館から数えて80年あまり、一貫して鳥学関連資料の収集に努め、国内外における鳥学ならびに関連分野の発展を支え続けてきました。たとえば、国内最大の約7万点の標本資料は、約1万種を数える世界の鳥類種のほぼ半数をカバーしています。また、4万冊を数える図書資料は鳥類学に関連するさまざまな書籍をカバーし、中には世界的な稀覯書が含まれています。こういった点から、山階鳥研は、鳥学および関連分野を研究する国内外の研究者にとって欠くことのできない研究拠点になっています。この研究事業は、平成27年度〜29年度に行った研究事業 「日本最大の鳥学関連資料群の維持管理・拡充・公開に関する研究事業」を基本的に踏襲し、これらの資料群の適切な維持管理、拡充を行うとともに、積極的な情報公開によって、そこから得られた成果を社会に還元することを目指すものです。
標本庫、書庫について温湿度管理、害虫・カビ等のモニタリングや発生時の対応など、また標本や組織サンプル(注2)、図書のうち、未整理のものについて、整理・番号付け・配架、国内外の研究者からの資料利用への対応などを行っています。
新規作成、寄贈の受入れ、交換、購入等により標本を拡充し、組織サンプルも同様に拡充しています。図書も寄贈、交換、購入等により増やしています。さらに標本関係では、鳥体内部構造のX線CTデータ(注3)、羽毛の走査電子顕微鏡画像データ、羽毛の紫外線画像データを撮影により集積し、また、DNAバーコーディングデータ(注4)も集めています。
ウェブサイト「標本データベース」と「蔵書検索システム」を運営しています。標本および組織サンプルの収蔵状況についての情報、鳥体内部構造のCT画像、羽毛の走査電子顕微鏡画像、羽色の紫外線画像を標本データベースに、図書についての情報を蔵書検索システムに追加しています。DNAバーコーディングデータを、国際バーコードオブライフプロジェクト(注5)のデータベースに登録しています。
また、当研究所に蓄積された鳥学の知識・技術を社会に還元するため、「山階鳥類学雑誌」を年2回刊行するとともに、一般からの質問対応窓口を設置、一般向けに鳥学の知識を易しく解説する講演会を開催し、野外調査講習会と標本作製講習会を開催(注6)しています。野外調査講習会で得られたデータは、繁殖モニタリング(注7)データとしての価値を持つので、『山階鳥類学雑誌』誌上で公開します。
さらにネットワーク構築として、我孫子市鳥の博物館が保有する標本とそのラベルの写真撮影を進め、『標本データベース』のフォーマットに合うデータを作成する作業を進めました。『標本データベース』のソースコードをもとにして、コンソーシアムのデータベースを作成する作業を進めています。
以上の計画は、文部科学省に認められ、平成27(2015)年度から令和2(2020)年度までそれぞれ総額5千6百万円で執行されました。
この研究の自己評価のための総括班の委員長を奧野卓司(山階鳥類研究所所長)が、事務担当を髙橋敏之(所員)が務め、委員を遠藤秀紀(東京大学教授)、小川博(東京農業大学教授)、真鍋真(国立科学博物館標本資料センターコレクションディレクター)、美濃導彦(京都大学教授)、綿貫豊(北海道大学教授)の各氏にお願いしました。
(注1)文部科学省科学研究費補助金(特定奨励費)による研究活動として、これまで、「希少鳥類の生存と回復に関する研究」(平成13年度〜16年度)、「日本産鳥類資料の整備と活用に関する研究」(平成17年度〜平成20年度)、「山階鳥類研究所データベースシステムの構築と公開」(平成21年度〜平成26年度)、「日本最大の鳥学関連資料群の維持管理・拡充・公開に関する研究事業」(平成27年度〜平成29年度)を行ってきました。
(注2)ここでは、DNAの抽出などを目的に保存した筋肉の小片などの組織。
(注3)コンピュータ断層撮影(Computed Tomography)。物体にX線を照射して得た画像を、コンピュータで処理して、物体の断面図や三次元画像を得る技術。
(注4)種の違いを反映するような、特定の遺伝子領域の短い塩基配列を解読することで、微小なサンプルからでも生物種の同定を可能にする技術。
(注5)すべての真核生物についてDNAバーコードの完備を目指す国際プロジェクト。公式ウェブサイト https://www.jboli.org/about/ibol
(注6)それぞれ「山階鳥学セミナー(捕獲技術入門編)」と「鳥類標本製作技術講習会」と名づけて平成27年度から開始しました。
(注7)東日本大震災に伴う原子力発電所事故で放出された放射性物質が鳥類の繁殖成績に及ぼす影響を長期的にモニタリングするため、アメリカ合衆国の同様の事業をモデルとして山階鳥研が開始したもの。福島県内3ヵ所と三陸沖1ヵ所について、捕獲方法と努力量を一定に保った調査を繁殖期に実施します。