研究・調査

資料整備5 生態資料の収集と活用(第4班)

2013年5月2日更新

本研究では、希少鳥類など日本産鳥類の野外資料を収集し、日本の鳥類相の特性を明らかにすることを目的とする。このために、観察による行動・生態調査、捕獲による形態調査、衛星・地上テレメトリーを活用した行動域・生態調査を行う。また、遺伝子解析の手法を用い個体群の構造や履歴を解析する。それらの結果を、保全生物学的な観点から解析し、保護施策に役立てるための基礎資料とする。現在、主に以下の3種に関して研究を行っている(括弧内は研究代表者)。

(1) ヤンバルクイナの生態研究(尾崎清明)

沖縄島北部のみに生息する日本固有種であるが、近年外来種であるマングースなどの影響によって、その分布域と個体数を減じていることが、これまでの本研究で判明している。そこで第1フェーズに引き続き、プレイバック法による生息分布域、地上テレメトリーによる周年行動圏の解明、DNA分析による遺伝子多様性の研究を実施する。その結果、1996年以来続いていた生息分布域の減少傾向がゆるやかになった様子が伺えるものの、分布の南限地域での分断化の傾向は継続している、雌雄交代で抱卵を行い雄が夜間を受け持つ、抱卵日数が21日間であることなどが新たに判明した。

写真ヤンバルクイナ

絶滅危惧種ヤンバルクイナの生態も徐々に明らかになってきた。

(2)オオミズナギドリの生態研究(岡 奈理子)

希少鳥類の環境科学的、栄養生態学的研究と、種の過半が日本に集中繁殖するオオミズナギドリの生態を研究した第1フェーズに続き、第2フェーズではオオミズナギドリに絞り、海洋環境が繁殖と索餌行動に与える影響について分析する。研究手法は、第1フェーズで確立した自動計測記録システムを使って、主要繁殖地の伊豆諸島御蔵島(暖流域)と三陸沿岸(混合域)の繁殖集団で、親の索餌行動圏、行動時間配分、栄養状態、雛への給餌頻度、雛の成長速度などのパラメータを測定して、両者の適応度を比較研究する。

これまでの調査から、子育て中の親の採食海域が北海道の釧路沖などの親潮フロント海域に集中し、良い餌場まで距離が遠い御蔵島繁殖集団の適応度が低い結果が得られつつある。今後、三貫島繁殖集団のパラメータを測定して適応度を比較し、海洋環境が繁殖集団に与える影響を明らかにする。

所外から綿貫豊(北海道大学水産科学院)、佐藤克文(東京大学海洋研)の各氏らの協力を得て実施中である。

(3) クマタカの個体群構造の研究(浅井芝樹)

クマタカの個体群構造解明のため、各地域からクマタカ羽毛を収集し、DNAを抽出して塩基配列データを蓄積する。そのDNAデータからクマタカの遺伝的多様性と地域間の遺伝子流動について分析する。これまでのところ、72サンプルについて1,035bpの塩基配列を決定し、12ハプロタイプを見いだした。今後は引き続き塩基配列を1,035bpで解読しハプロタイプを決定する。

これらのデータに基づいて遺伝子流動の分析、系統解析などを行い、クマタカの日本個体群中の移動や分布拡大の歴史について解明する。所外から山本義弘氏(兵庫医科大学)の協力を得て実施している。

この他、オオミズナギドリ雛の巣立ちを決める至近要因の解明(出口智広)、ウグイスの条件的性比操作に関する研究(浅井芝樹)、日本に渡来するハマシギの渡りの研究(茂田良光)、日本産鳥類に寄生する外部寄生虫の分類(鶴見みや古)なども実施している。

(山階鳥類研究所 標識研究室長 尾崎清明)
~山階鳥研NEWS 2006年3月1日号より~


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