2022年11月14日掲載
山階鳥類研究所 所長
東京農業大学名誉教授
小川 博
山階鳥類研究所の創始者である山階芳麿 博士は、家禽を用いた雑種不妊や染色体の研究、戦後のタンパク質不足に対応するためのニワトリの増殖に関する研究にも打ち込まれたと聞く。ニワトリは人類との関わりが最も深い鳥で、国連食糧農業機関(FAO) によると2020年における世界のニワトリの飼育羽数は330億羽を超えたとされている。
ニワトリ以外に目を向けてみると、アヒル、ガチョウ、バリケン等のカモ目の鳥、シチメンチョウ、ウズラ、ホロホロチョウ等、ニワトリと同じキジ目の鳥、ダチョウやエミュー等のダチョウ目の鳥、ハト(ハト目)などが家禽として利用されている。これらのうち、アヒルとウズラについては卵の利用も盛んだが、ニワトリほど一般的ではない。その他の鳥で、卵用家禽としての可能性を秘めているのがホロホロチョウであると考えている。
ホロホロチョウはホロホロチョウ科の鳥の総称だが、家禽化されたものは西アフリカ原産のホロホロチョウ属のカブトホロホロチョウ(Numida meleagris)が野生原種である。この鳥は、古くは古代ギリシャ・ローマ世界で盛んに飼育されていたが、その後、飼育が途絶え、西暦1400年代後半にポルトガル人によってヨーロッパへ再導入されたという。現在では、フランスやイタリアでの飼育が盛んで、日本でもフレンチやイタリアンの高級料理の食材として使われている。
フランスでは肉用の家禽としては一般的で、食品スーパー、肉屋、マルシェなどで精肉や加工品が簡単に手に入る。価格はニワトリと比べると少し高い程度で、日常の中でちょっと特別な日に食べるような食材だという。
一方、ホロホロチョウの卵は食味が良いことに加え、卵殻が厚く割れにくいこと、卵黄の割合が高く卵白の割合が小さいことから卵黄が盛り上がって見えること、カラザが見当たらないこと、鶏卵と比べて卵黄中のコレステロール含量が少なくω(オメガ)6脂肪酸を多く含むことなど、食卵として好まれる特徴を有しているが、フランスや日本において販売されている例はほとんど見当たらない。
家禽のホロホロチョウを日本の自然環境下で飼育すると、産卵は4月~10月頃に限られ、一年間の産卵数は100個余りである。また、ホロホロチョウはつがいを形成することから、ニワトリのように群飼(ぐんし)することで簡単に受精卵を得ることができないため、産業的には人工授精を行って受精卵を生産している。これらのことがホロホロチョウ卵や雛の計画的な生産が難しい理由である。しかし、光周期や温度の管理により年間の産卵数は170個以上にも達するという。このことは、上述のホロホロチョウ卵の特長を考慮すると、卵用家禽としての可能性を秘めていると感じさせる。
ホロホロチョウの日本への伝来について、大日本農会附属東京農学校(東京農業大学の前身)初代校長を務めた「日本の博物館の父」と呼ばれる田中芳男 男爵が、1867年にパリの万博から持ち帰ったとの記録が残っている。東京農業大学では近藤典生(のりお)博士らが中心となって、「我が国における遊休空間利用によるホロホロ鳥生産プロセスのシステム化に関する研究」を行って以来、さまざまなホロホロチョウ研究が続いている。現在も雛生産から加工品の販売までの6次産業化を目指したホロホロチョウ生産について、繁殖方法、付加価値の向上、加工品の開発などを課題に取り組んでいる。今後、ホロホロチョウ卵を使った新たな食文化が生じることを期待している。
(文・写真 おがわ・ひろし)