2020年7月1日更新
都市鳥研究会・代表 川内 博
1980年代に「都市鳥」という新語を都市鳥研究会が登場させて以来40年。世界の潮流も都市の鳥に関心が高まっていて、日本でもその名称は市民権を得てきています。そんな都市鳥の最新事情を、研究会の代表、川内さんに紹介してもらいました。
都市鳥研究の初期の対象はツバメとカラスでしたが、街なかに思わぬ鳥が次々と入ってきました。1970年代に都市鳥になったのはヒヨドリ、次いでコゲラが80年代に全国の街に定着しました。90年代になるとオオタカが各地の都市に棲(す)みだし、そして2000年代に入るとイソヒヨドリがビル街で歌いだしました。
イソヒヨドリはヒタキ科の鳥類で、全長23㎝とツグミ大。雄は頭部や上面は青色、腹部はレンガ色と派手な羽色で、その歌声は大きく朗々として、オオルリの囀(さえず)りを彷彿(ほうふつ)とさせる美声。才色兼備の鳥が今、東京や大阪の街なかで「都市鳥」になっています。
イソヒヨドリは漢字では「磯鵯」。“岩場の多い海岸にすむヒヨドリに似た鳥”という意で、誰もが疑うことなく、ぴったりした命名だと思っていました(写真1)。その生息地の名所は、神奈川県の三浦半島、静岡県の伊豆半島などの岩礁の続く海岸線。かつてはその姿を求めて各地から出かけたものでした。しかし今やその名所に“東京・八王子市”がランクインしています。
八王子は、東京湾からは40㎞離れた標高100mの丘陵地にある人口58万人の中核市。この街にイソヒヨドリが現れたのは1993年。2009年からは駅の周辺などで繁殖するようになりました(写真2)。今ではその生息地は、JR八王子駅を中心として、八王子市・日野市・多摩市、そして鉄道沿いに山梨県へも広がっています。営巣数は、地元の「八王子・日野カワセミ会」の調べで46巣以上。営巣場所は「鉄道駅の付近」に多いという特徴のほか、「大規模量販店」や「マンション」を選ぶことが多く、立体駐車場内や通気口など“雨が降りこまない”位置にあるという共通点が見つかっています。
英名はBlue Rock Thrush、学名Monticola solitarius も“孤独に山に暮らす”といった意で“磯”とは関係ありません。ユーラシア大陸の岩場に広く分布するこの鳥がわが国にまでやってきたとき、日本で生息できる環境が海岸にしかなかったと考えられます。
それにしても、ムカデから木の実、ごみ箱漁(あさ)り(写真3)までする強力な雑食性のこの鳥が、“なぜ”長年「磯」に執着していたのか、“なぜ・今”街なかに進出してきているのか。まず関西地域で定着した分布拡大は現在、関東地方を含めて全国的に見られています。しかも、進出先は街だけではありません。和歌山県の高野山、奈良県の吉野山でも、繁殖期にその姿を見かけました。“なぜ・緑の山へ登るのか”。今のところ答えは出ていません。
日本中で進行している「イソヒヨドリの内陸部進出」は“イソヒヨドリ自身の習性変化”なのか“日本国内の環境の変化”を意味するものか、それともまったく別の理由なのか、その原因を探る作業に都市鳥研究会が一丸となって取り組んでいます。思わぬところでイソヒヨドリを見かけたら、ぜひご一報ください。※
(写真・文 かわち・ひろし)
※ イソヒヨドリの情報提供は都市鳥研究会(hkawachi2dream☆yahoo.co.jp)にメールでお送りください。(メール送信の際は☆を小文字の@に置き換えてください)