第2回日米アホウドリ回復会議

2004年5月25-28日実施 於:山階鳥類研究所、手賀の丘公園
主催:米国魚類野生生物局

2015年6月3日更新

2002年11月にハワイで開催された第1回の会合に引き続き、第2回の会合が山階鳥研と沼南町手賀の丘公園(現・柏市)で開催されました。

5月25日から28日にかけて回復計画の課題や各課題の重要性について協議されました。日本からは山階鳥研の尾崎清明標識研究室長、東邦大学の長谷川博教授をはじめとする海鳥専門家3名と環境省が出席、小笠原の自然保護NPO代表も参加していました。米側は政府魚類野生生物局の保護政策担当者数名のほか、大学のアホウドリ研究者数名、水産行政担当、水産業会代表と多彩な顔触れで、オーストラリアの研究者1名も含め、計11名が来日しました。

会議では、回復の現状や将来の見込み、考えられる不安要素、漁業混獲の防止対策など最新の情報が報告され、これらをもとに今後必要な研究や対策について議論されました。

研究報告する米魚類野生生物局のポール・シーバートさん
(5月24日、山階鳥研で)

繁殖地では増えているが・・・

鳥島や尖閣諸島で繁殖するアホウドリについては、鳥島では環境整備効果もあって順調に増加、尖閣諸島についても、データが少ないながら鳥島以上の回復率を示しているようだ、との良い報告がありました。両繁殖地の年間増加率はそれぞれ7%と11%(尖閣諸島は推定値)で、従来アホウドリの仲間の増加率としては上限と考えられていた速度以上の勢いです。一方で、アホウドリが生息する北太平洋海域では、アホウドリが餌と誤って飲み込んでしまう恐れのあるプラスチック浮遊物が激増していること。また、アホウドリの卵を分析したところ、有機塩素蓄積が北半球の海鳥類の中でも最も高く、繁殖に悪影響を及ぼす恐れがあるとの、不安要素も報告されました。

弘前大学の黒尾正樹氏を中心としたDNA研究からは、基本的に鳥島と尖閣諸島で繁殖する個体には遺伝的に大きな違いがあること、鳥島では尖閣諸島生まれと思われる個体も繁殖に参加し、ヒナも生まれていることが報告されました。これが遺伝的に良いことなのかは引き続き研究が必要です。また、東京大学の江田真毅氏を中心とした窒素と炭素の安定同位体比の研究からは、尖閣諸島の個体群は鳥島の個体群とは採餌海域が異なり、主に日本海で餌をとっている可能性が考えられるとのことでした。

米側からはアホウドリがはえ縄漁などで混獲されることについて報告があり、その対策として、米水産業界の試験で、ストリーマー と呼ばれる混獲防止装置が非常に大きい効果があることが分かりました。このほか、餌をより速く沈めるために錘(おもり)を編み込んだロープも試験中とのことでしたが、こちらはまだ改良の余地があるようです。

興味深い報告としては、コアホウドリとクロアシアホウドリが多数繁殖する太平洋のミッドウェー島で、近年アホウドリ1羽が未受精卵を数回産み、若鳥数羽も訪れるため、この2年間はデコイとスピーカーによる誘致作戦を実施しているとのことでした。

第3の繁殖地に前向きな議論

このような報告をふまえ、今後もこれまでどおり鳥島でのモニタリングや環境整備は継続し、情報が少ない尖閣諸島の個体群については、さらに調査が必要であることが確認されました。また、アホウドリの回復には、火山活動や政治上の不安がある鳥島や尖閣諸島の繁殖地に加え、第3の繁殖地が必要で、その有力な候補地として、小笠原の聟島列島が挙がりました。具体的には、デコイと音声による誘致と平行して、鳥島で生まれた雛を移動することの可能性や、放棄された卵を孵化させて、飼育後に放す手法も前向きに話し合われました。コストや行政的な手続きなど、クリアしなければならない様々な問題があり、特に雛の移動には他のアホウドリ類での予備調査をしたほうがよいとの話も出ていたので、全ての実現までにはもう少し時間がかかりそうです。

混獲問題については、アホウドリ採餌海域で操業しているロシアや韓国とも連携し、混獲対策の技術の伝達が必要であること。また、今後は日本の水産庁や水産業界の代表を回復チームに加えていきたいとしました。

研究報告の後、今後の回復計画の進め方について議論が交わされた(5月28日、手賀の丘公園「どんぐりの家」で)

米が多額の資金提供

今回米側からは、今後数年間で総額150万ドルもの資金を回復計画の達成に向けて使えそうだという報告もありました。背景には、米水産業界では絶滅危惧種の混獲に対して厳しい規制があるため、絶滅危惧種リストから外しても良い状態にまでなるべく早く回復して欲しいという思惑があるようです。また、アホウドリは現在順調に回復しており、将来絶滅危惧状態から脱する見込みがあるということも手伝って、研究や回復事業に対する資金提供にも前向きです。日米の研究者や行政担当者にとって、これまで予算上の制約などから取り組む事ができなかった課題にも着手する貴重な機会です。米側の思惑はあるにしても、アホウドリ回復にとっては追い風になることが期待されます。

仲村 昇(山階鳥研NEWS 2004年7月1日号より)

注)ストリーマー=はえ縄を使用中におこるアホウドリ類の混獲は、餌がまだ十分に沈んでいないはえ縄投入時に集中している。投入場所付近の空中にカーテンを作るように鳥おどしテープ(ストリーマー)を吹き流すと、鳥の低空飛行を妨害するので接近を防ぐことができ、その間に餌が深く沈むため、潜水が苦手な海鳥の混獲は大幅に減少する。日本で開発された。

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