読み物コーナー

2025年3月5日掲載

山階鳥研収蔵のコウテイペンギンのはく製
東京農業大学「食と農」の博物館企画展「南極飯!」で展示

東京農業大学「食と農」の博物館 准教授・第61次南極地域観測隊陸上生物調査班 田留健介

2024年10月18日〜2025年3月29日にかけて、東京農業大学「食と農」の博物館で企画展「南極飯!」が開催されています。この展示では、南極の自然はもちろん、南極観測隊の「食」にスポットを当てています。

日本からはるか1万4000km、極寒の最果ての地「南極」。1956年に第1次南極地域観測隊が日本を出発、氷に閉ざされた海域を突破し、南極・東オングル島に到達後、1957年に昭和基地を建てました。数度、観測ができなかった年があるものの、日本の南極観測隊員による調査、観測、基地の設営が継続的に進められています。そして、今も、この瞬間もそれは行われています(図1)。真夏でも気温が0℃を下まわるこの世界で、隊員が楽しみにしているもの、それは「あたたかい食事」です。どんなに厳しくても、あたたかい食事があるからがんばれる。本企画展は「食が科学を支える」をテーマにしています。

図1南極大陸での生物調査

図1 南極大陸での生物調査

注目の展示①南極で焼き鳥⁉

展示内容としては、オーロラの写真やペンギンのはく製はもちろん、昭和基地でふるまわれている食事の再現展示があります。また、展示の目玉のひとつに〝第1次隊が食べていたオオトウゾクカモメの巨大焼き鳥のレプリカ〟があります。当時の写真をもとに、株式会社鳥貴族がニワトリの肉を使用して再現、それを参考に食品サンプル製造業の株式会社いわさきが巨大焼き鳥のレプリカを作成しました。まだ〝南極探検隊〟だったころの野趣あふれる食の展示となりました(図2)。なお、山階鳥類研究所の研究員に聞いたところ「たぶん、肉は臭かったと思う」とのことです。当時の記録を探ってみると、ニンニクやセロリをたくさん入れた醤油だれに1日漬けて臭みをとっていたようなので、この指摘は正確だと思います。

図2オオトウゾクカモメの巨大焼き鳥サンプル展示

図2 オオトウゾクカモメの巨大焼き鳥サンプル展示

注目の展示②歴史的に価値のある鳥類はく製

南極の自然や生きものについて展示するうえで、ペンギンははずせません。ペンギンは世界で18種いますが、南極大陸で繁殖するペンギンはコウテイペンギンとアデリーペンギンの2種だけです。アデリーペンギンのはく製は国立極地研究所からお借りすることになっていましたが、コウテイペンギンのはく製はどこに頼むか悩んでいました。

そんなとき、山階鳥類研究所のデータベースを閲覧していたところ、古いコウテイペンギンのはく製の画像に目がとまりました。そして、そのはく製のラベルの画像を見た瞬間、思わず声が出ました。そこには「昭和32年2月10日東経39度09分南緯69度00分」と書かれていたのです。この日付、座標は第1次隊がオングル島周辺で採集した個体であることを意味しています。第1次隊隊長の永田武の著書である「南極地域観測隊中日記」にも、同日に野外調査をしていることが記載されています。山階鳥類研究所によれば、このはく製は昭和天皇の生物学御研究所から山階鳥類研究所に移管されたもので、もともとは昭和天皇への献上品のコレクションだったようです。生物学御研究所の献上品台帳によれば、献上は昭和32年5月6日となっており、宮内庁宮内公文書館の「昭和天皇実録巻四十三」によれば、この翌日、5月7日に永田隊長は昭和天皇に謁見しています。はく製は、このときに献上されたと考えられます。このことから、南極観測の歴史を語るうえで非常に価値の高いはく製と言えるでしょう(図3)。企画展を通して、南極の自然や極地の食について興味をもっていただければ幸いです。

図3コウテイペンギンのはく製

図3 コウテイペンギンのはく製

(写真・文 たどめ・けんすけ)

「山階鳥研ニュース」 2025年1月号より

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