2019年11月14日掲載
前事務局長 北條政利
長年にわたり事務局長として山階鳥研を支えてきた北條政利さんが、本年7月末で退職されました。山階鳥研での活動を振り返るとともに、「鳥の研究の魅力」について寄稿していただきました。
平成31(2019)年4月30日をもって事務局長を退任し、その後3か月間の事務引継ぎ期間を経て、令和元年7月末に最終的に退職いたしました。平成17年7月1日に就任しましたので、14年間勤務したことになります。この間、関係者の皆様からご支援・ご協力を賜りましたことに厚く御礼申し上げます。
私は、山階鳥研に勤務するにあたり、営利を目的としない民間の公益法人とはどのような組織なのかを調べ、事務局長の位置づけ及び責任を確認しました。そして法人の運営にかかわる総合的な事務責任は言うまでもなく、理事長及び研究所長が行う内政および外政の補佐役を務めることも事務局長にとって大切な任務であることを理解しました。
これらの任務は当然のことながら広範囲にわたりました。仕事上の苦労話や思い出話はたくさんありすぎて何かを抽出してお話しするのは困難です。全体を振り返れば大変やりがいのある愉快な14年間でした。
話はガラッと変わります。私は就任当時、鳥についての知識は深くありませんでしたが、「門前の小僧」で、知識が少しずつ身に付き理解も少しは深まったと思っています。そのかたわらで「山階鳥研の研究員が共通して感じているはずの『鳥の研究の魅力』とはいったい何なのだろう?」と疑問を持ち続けておりました。魅力というのは直観的な感性で受け止めるものですから『鳥の研究の魅力』も理屈では説明し難いものなのだと思っておりました。
先日、小惑星「リュウグウ」に「はやぶさ2」がタッチダウン着陸をし、その後弾丸を打ち込んでクレーターを作ることに成功しました。さらにクレーターから飛び散った砂を採取することにも成功しました。来年無事地球に戻ることが期待されています。その最初のタッチダウン着陸のことがドキュメンタリーとしてまとめられ、過日TVで放映されました。番組を食い入るように見ているとき、なぜか私の脳裏では『鳥の研究の魅力は何か?』という思いが同時進行していました。
ふと気づいたのです!鳥の研究も宇宙の研究も「未知への挑戦」という点では同じだということに。たまたま扱う材料が違うだけで、鳥の研究は最先端を行く科学研究なのだと。「はやぶさ2」が宇宙の成り立ちや生命の起源を解明しようとするのと同じように、鳥という材料をとおして生命の成り立ち、多様性の謎と起源、ひいてはそれらの保全や人間とのかかわりなどを解明しようとしている。それは「未知への挑戦」であり、研究者を引きつける魅力の本体なのだと。
極めて単純で大局的な気づきですが、そのとき私は長いあいだの謎が解けたように感じました。そして同時に、研究者ではないけれども山階鳥研に14年間籍を置いてその運営にかかわれたことをとてもうれしく、誇りに感じました。
山階鳥研における研究活動(未知への挑戦)が今後もますます発展してゆくことを祈念します。
そして退職後も自分ができる範囲で支援を続けたいと思っております。長い間、ありがとうございました。
(備考)私の就任当時、理事長は島津久永様でした が、平成27年6月壬生基博様に替り現在に至ります。また、研究所長は山岸哲様でしたが、平成22年4月林良博様に替り、さらに平成29年4月には奥野卓司様に替り現在に至ります。
(文 ほうじょう・まさとし)