2015年8月6日掲載
2015年3月で山階鳥研を退職された米田重玄さんに、水田で繁殖するシギの仲間、タマシギの生態について紹介していただきました。タマシギはメスがオスより美しく、オスが抱卵・育雛をする鳥で、米田さんは山階鳥研就職前の大学院時代にこの鳥の生態を研究しました。
(「山階鳥研ニュース」2015年7月号より)
元 山階鳥類研究所 保全研究室 米田重玄
鳥の世界では多くの種類が、1羽のオスと1羽のメスが番いになり、子育てを行う一夫一妻の繁殖形態をしています。ところが一夫一妻以外のいろいろな繁殖形態を持っている鳥も知られています。まず、鳥の繁殖形態についての分類を紹介します(表1)。
一夫一妻 | 90%以上 | |
---|---|---|
一夫多妻 | 約2% | 資源防衛型 ハーレム(メス防衛)型 レック型 |
一妻多夫 | 1%以下 | 資源防衛型 共同的一妻多夫型 |
多夫多妻 | 十数種 | |
托卵 | 約3% | 種内托卵 真正托卵 |
共同繁殖 | 数百種 |
世界に約1万種類の鳥が知られていますが、その90%以上は一夫一妻で、オスとメス1羽ずつで番いを作り、子育てを分担します。
いっぽう約2%の種類では1羽のオスが数羽のメスと番いを作り、一夫多妻制の鳥と言われています。この場合、子育てはオスはほとんどしないものも多いですが、分担する場合もあります。この中にはオスが防衛するものによって次の3つの型に分けられます。「資源防衛型」=オスが質の良いなわばりを確保してそこにメスを呼び込みます。これにはオオヨシキリやセッカなどが含まれます。「ハーレム(メス防衛)型」=オスは、メスの気に入るものを作ったり、踊ったりしてメスを呼び込みます。ニワシドリ、フウチョウの仲間がこれに該当します。「レック型」=数百のオスが集まって、集団求愛場(レック)を形成します。その内部に、それぞれが2メートル四方ほどの狭い縄張りを主張します。この縄張りはレックの中央ほど、密集していて、多くのメスを引き付けます。クロライチョウ、キジオライチョウ等のライチョウの仲間やエリマキシギなどのシギの仲間が知られています。
1羽のメスが複数のオスと番いを作る鳥です。ほとんどの場合メスのほうが大きくてあざやかな色をしています。子育ては主にオスが行いますが、メスが分担する場合もあります。世界の鳥の種類の1%以下と言われています。この中には「資源防衛型」でメスがなわばりを作って、その中で複数のオスと番いを作るタイプ(クイナ類、ミフウズラ類、レンカク類、ヒレアシシギ類、マダライソシギ、コバシチドリなどが知られている)と、「共同的一妻多夫型」といって数羽のオスが、1羽ないし数羽のメス(巣)を共同して手伝うタイプ(ノスリの仲間(ガラパゴスノスリ、モモアカノスリ)、シロボシオグロバンが知られている)があります。
複数のオスと複数のメスが一つの共同繁殖群を作ります。一つの巣に共同産卵する場合も、複数の巣を作る場合もあります。メスが主に子育てをして、オスは縄張りを守りますが、雛の世話をすることもあります。ダチョウ、エミューなどの走鳥類、シギダチョウ類とイワヒバリ、ドングリキツツキなどで知られています。ここまでは夫婦の関係ですが、このほかにだれが育てるかについて、ほかの鳥の巣に卵を産んで雛を育ててもらう「托卵」と自分の子供ではないヒナの世話をそのヒナの親と一緒にする「共同繁殖」とがあります。
ではタマシギはどうでしょうか。メスのタマシギは体が大きくて、派手な色彩をしていて、大きな声で鳴くのに対して、オスは地味な色合いで目立たなくて、抱卵や育雛などの子育てを行い、オスとメスの形態と習性の特徴が普通の鳥と逆になっているために、一妻多夫の変わった生態を持った鳥と言われています。
私は今から約35年前にこのタマシギの繁殖生態を滋賀県の琵琶湖のほとりと、愛媛県の瀬戸内海沿岸で調べました。
調査地でタマシギを観察しているとオスとメスが連れ添って歩いている姿がよく観察されます。番いのオスとメスがどれくらいの時間一緒にいるかをグラフ(図1)にしてみると、合計200時間の観察の中で、産卵の日齢が進むにつれて一緒にいる時間が変化しているのが分かります。これは、産卵を始める3~4日前から産卵期の前半まではいつもオスとメスが一緒に行動し、巣から離れる時も必ず連れ立って飛んでいき、後半になるとオスは巣に留まって抱卵をしますが、メスはどこかに飛んでいくことが多くなるからです。4個の卵を産み終えるとメスはその巣から離れてしまい、その後巣に戻ってくることはなく、オスは1羽だけでヒナが孵化するまでずっと抱卵を続けました。この結果オスとメスが一緒にいる期間は約1週間だけで、その後はバラバラになって暮すことが分かりました。
個体識別して観察をすると、メスは「コーンコーン」と聞こえる良く通る大きな声で鳴きながらオスを求めて飛び回ります。オスと番いになったメスは約1週間はそのオスと一緒にいますが、そのあとはまた次のオスを求めて飛び回ります。このようにして1羽のメスは少なくとも4羽のオスと7回以上番いになったことが分かりました。いっぽうオスは、番いの期間を過ぎた後、孵化するまで1羽で抱卵を続け、その後もヒナが独立するまでヒナの世話を続けます。ヒナを育て上げた後や、卵やヒナが捕食などにあった場合には、オスを求めて飛び回っているメスと番いになります。個体識別した3羽のオスの観察で、1羽のオスは少なくとも2羽のメスと4回の営巣が確認され、他の2羽はそれぞれ2羽のメスと2回ずつの営巣が確認されました。
タマシギの繁殖生活を表にすると表2のようになります。タマシギは3月下旬から9月頃まで繁殖しますが、約1か月半で一腹のヒナを育て上げることができるので、1シーズンに何回か繁殖すると思われます。今まで身体的特徴や行動の特徴から一妻多夫の婚姻形態と考えられてきました。私の研究からも、メスが何回かオスを変えて繁殖することは一妻多夫を裏付ける証拠と言えるのですが、オスも何回かメスを変えて繁殖するため、私は一妻多夫とは言えないのではないかと思っています。むしろ産卵前3~4日から産卵中の4日間はずっと番いで過ごすことからこの期間は厳密な一夫一妻制の繁殖生態をしていると言えます。他の一夫一妻制の生態を持っている種類の場合でも、次の年には番い相手を変える鳥はたくさんいます。タマシギについて言えば番いの期間が非常に短いこと、抱卵や育雛をオスだけが行うことがほかの一夫一妻制の鳥と大きく違う所です。
日数 | ♀(メス) | ♂(オス) | |
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産卵前ペア期 | 3~4日 | ♂とペア | ♀とペア |
産卵期 | 4日 | ♂とペア 産卵 巣作り | ♀とペア 巣作り 抱卵 |
抱卵期 | 16日~18日 | ×(ほかの♂とペアを作る) | 単独で抱卵 |
育雛期 | 18日以内 | ×(ほかの♂とペアを作る) | 単独で育雛 |
育雛終了 巣の放棄 | ♀とペアを作る |
(文・写真 こめだ・しげもと)