読み物コーナー

2013年3月4日掲載

最近の中国のトキ事情

米田研究員は2010年9月から2年間、国際協力機構(JICA)の技術協力プロジェクト「人とトキが共生できる地域環境づくりプロジェクト」で中国に専門家として派遣され、2012年9月に山階鳥研に復帰しました。研究員が現地で見てきた中国のトキの現状について報告いたします。

トキは中国では1960年代には絶滅したと言われていました。ちょうど日本の野生トキの全個体(5羽)を山階鳥類研究所が捕獲をして日本からも野生のトキがいなくなった1981年に、陝西省洋県の山村で2家族7羽が生息しているのが発見されました。それ以後、中国と日本は共同してトキの保護に取り組んで、30年経った2011年には世界中で野生や飼われているトキの数は発見された時の7羽から200倍以上の1600羽にも増えました。

日本では中国から贈られたり借受けたりしたトキを飼育して、2006年に佐渡で野外に放したトキから、昨年になってようやく雛が生まれて3巣から8羽のヒナが巣立ちをしました。トキの故郷の中国では、発見地の陝西省洋県で保護に取り組んだ結果、昨年は野外で180巣以上の巣から270羽以上の雛が巣立ち、また、隣の陝西省寧陝県では野生復帰したトキから6巣14羽の雛が巣立ちました。また、野外で見られるトキの数も洋県で800羽から1000羽ほど、寧陝県では約50羽になっています。

ため池のほとりで100羽以上のトキが集まって塒を取ります。まるでサギの塒を見ているような感じです。
(2010年12月8日 陝西省洋県)

洋県では、山間の水田地帯のあちこちでトキの姿を見ることが出来ます。また、9月から11月にはトキが集団で塒を取るために夕方になると三々五々林に集まってきて、数十羽から100羽以上の群れになります。何かに驚いて飛び立ったときなどは夕日にトキ色が映えて、非常にきれいです。普通はため池の周りの斜面林など静かなところを塒にしますが、時にはトラックが行きかう道路のすぐ上で数十羽が塒を取ることもあります。また、バスが大きな音を立ててクラクションを鳴らしても平気で寝静まっています。中国のトキは人をあまり恐れなくて、農作業などをしている時もすぐ横で採食していることもよくあります。寧陝県の個体の一部は非常によく慣れていて、立ち話をしているすぐ横に降りて来て採食を始めることもありました。また、田植えをしている10mから20m先でドジョウを食べている様子は、コサギやアマサギと見間違えるようです。

トキとコサギが仲良く採食をしています。
(2010年10月29日 陝西省洋県)

このように順調に数を増やしている中国のトキも問題を抱えています。その一つは洋県では数が増え、生息範囲が広まって今までのような手厚い保護の手が届かなくなっていることです。そのほか、経済の発展で人が都市に集中し、トキが好んで生息している山村から人がいなくなり田んぼが荒れてきているという問題もあります。これらの問題の解決に向けて、JICA(国際協力機構)は中国国家林業局と協力して「人とトキが共生できる地域環境づくりプロジェクト」を5年計画で2010年9月にスタートさせました。このプロジェクトでは、トキの保護と地域住民の生活向上のためのモデル事業や自然保護のための環境教育などを実施しており、私は昨年の9月まで鳥類保護の専門家として派遣されていました。

(保全研究室 米田重玄)

山階鳥研ニュース」2013年1月号より

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