2022年8月17日掲載
山階鳥研では、長年、依頼を受けて、切手や紙幣に登場する鳥類のデザインの考証を行ってきました。鳥類のデザインの制作の際に、対象の鳥が正確に表現されているかをチェックする仕事です。ここでは、近年、特殊切手「天然記念物シリーズ」などのデザインを担当し、鳥類のデザインについて山階鳥研とやりとりされている切手デザイナーの丸山智さんに仕事の実際について執筆いただきました。
日本郵便株式会社 主任切手デザイナー 丸山 智
「動物の切手であれば、動物図鑑のように正確であれ。」
偉大な先輩切手デザイナーの言葉です。郵便切手は、郵便料金の前納を証明する証紙として、その用途は個人間通信、企業間通信等、多くのお客さまに、長くご利用いただくものとなります。そのため、そのデザインの作成にあっては、題材を正確に表現・描写しなければならず、決定の過程において、専門家の方々からの考証・助言は欠かせないものとなっております。
私は1999年に、当時の郵政省に技芸官(現在の切手デザイナー)として入省しました。以降、「地方自治法施行60周年記念」、「日本の山岳」、「日本の城」等、おもに文化財や景観、観光といった、写真で表現することが多い題材を担当しておりました。写真の選定はもちろんのこと、時には自ら撮影しておりました。そのため、題材関係者に写真の正確性を確認することがあっても、専門家の方々に考証・助言を依頼することまでは行っておりませんでした。
そんな折、天然保護区域をテーマとし、そこに含まれる天然記念物をはじめとした自然を紹介する「天然記念物シリーズ」の企画が2016年から始まりました。第1集は写真表現としたのですが、お客さまからのご要望等もあって、第2集からイラスト表現とすることになり、動植物のイラスト表現の正確性が問われることになりました。特に鳥類については、ほぼ全集にわたり考証・助言が必要となりました。
山階鳥類研究所様とのお付き合いは、おそらく私の大先輩の時代からでしょうから、30年以上続いています。これまでも正確な鳥類の描写が求められる案件については、必ず、考証いただいておりました。そのご縁から、私が直接担当する「天然記念物シリーズ」で扱う鳥類の考証についても、山階鳥類研究所様にお願いするのが一番だという結論になり、第2集以降、ご協力いただきました。
至近でお世話になった案件が、「天然記念物シリーズ第6集」です。この第6集は十和田湖および奥入瀬渓流がテーマだったことから、「アカショウビン」、「キセキレイ」、「キビタキ」、「オオルリ」と4種類の野鳥が題材になりました。題材選定については、文化庁記念物課様と相談し、地元自治体である青森県様、また詳細な題材選定を十和田奥入瀬(とわだおいらせ)観光機構様にご協力いただき、題材を決定し、私も、実際に現地に訪れ取材を行いました。
デザインの作成プロセスとしては、まず、写真素材を選定し、その写真を元に作画します。現在は、作画についてはフォトレタッチソフトを使ったコンピュータによる作業となっています。その後、デザイン案が完成したら山階鳥類研究所様にご連絡させていただき、デザインの考証をお願いします。具体的には、作画の参考にした写真とデザイン案を1枚のシートにし、ご確認いただく方法です。やり取りはメールによる作業となります。考証いただいた結果はメールにより受けます。その内容は、個体全体の色味、嘴(くちばし)や趾(あしゆび)の形状、羽毛の重なりなど細部にわたって修正のご助言をいただきます。これらを全て修正し、再度デザインをご確認いただき完成となります。
最近の考証のやり取りは、主に平岡様とさせていただいております。デザインの企画意図やテーマを正確にくみ取っていただいていることから、全体イメージの所感や修正指示内容は理路整然としていてとても明確です。
私自身それほど鳥類には興味がありませんでしたが、切手の作画を通じて、勉強していくうちにだんだんと興味がわいてきました。特に趾の形状について細かい指摘をいただくことがあり、鳥類のデザインをするまでは気にしていなかった点ですので面白く感じています。まだ実際にお会いすることができていませんので、気安くお目にかかれるようになりましたら、ご挨拶に伺わせていただきたいと思います。引き続き、切手のデザインに関する考証・助言をよろしくお願いしたいと考えております。
(文・図 まるやま・さとる)