読み物コーナー

2019年7月25日掲載

鳥の死体は語る 〜ハシボソガラス連続死の謎〜

自然誌研究室研究員 岩見恭子

山階鳥研では、鳥類の標本材料として鳥の死体を収集していますが、それらの死体の中には興味深いものも含まれています。標本の収集と製作を担当している岩見研究員にそのような例を紹介してもらいました。

山階鳥研ニュース」2019年5月号より

山階鳥類研究所には年間約700個体 の鳥体が全国各地から集められ、冷凍保存されます。寄贈された鳥の死因を記録するため、解剖して死亡原因を探ることがあります。毎日鳥の死体と向き合っていると興味深い事例もあります。最近の「事件」についてご紹介したいと思います。

2018年の夏、友人から「知り合い宅の前でカラスが頻繁に死んでいる」との連絡を受けました。死体には特に傷のようなものは見当たらないとのこと。ただ、電柱の下に落ちているので、「何か電柱と関わる事故ではないか、調べてみてもらえますか?」と依頼されました。死体を引き取りに現場を訪ねると死体はなく、すでに廃棄されていました。死体の発見者にお話を伺うと、毎年のようにカラスの死体が同じ電柱の下に落ちていること、2018年はすでに5羽の死亡を確認したことがわかりました(写真1)。死体がないので死因は特定できなかったのですが、また死体を見つけた場合は連絡をくださるようにお願いして帰りました。

写真1 ハシボソガラスが落ちてくるという電柱。この電柱の下に毎年カラスが死んでいるのを発見者は不思議に思っていたそうです。

山階鳥類研究所に戻り、この件を同僚の小林さやかさんにお話ししたところ、2017年に同じ場所でカラスを拾ったということでした。早速データベースを調べてみると、冷凍庫にそのハシボソガラスが保存されていることが分かりました。死体を確認すると、嘴(くちばし)に溶けたような穴が開いており、足の裏にも火傷のような傷がありました(写真2、3)。これまでも感電死したカラス類をいくつか見たことがありますが、今回と同じような特徴的な傷がありました。確認のため解剖してみると、頭骨の後頭部を骨折しており、内臓も大きく損傷して腹腔内で出血していました。

写真2 嘴が溶けて損傷したハシボソガラス。通電した箇所が嘴の場合、溶けて歪んだようになることがある。

写真3 感電死したハシボソガラスの脚の裏。火傷の跡が見られる。

通常の電線では鳥が止まっても感電しません。一本の電線に止まっても鳥の体の中を通るよりも電線を流れる方が抵抗は少ないため、鳥の体に電気が流れることはないからです。また街中の電線は多くがカバーされているので通常は感電することはないとされています。ただ、ハシボソガラスやハシブトガラスは電柱に営巣したり、電線周りの部品やプラスチックを取って巣材にしようとしたりします。今回の事例では、どうやら電柱の部品をいじってカバーを外してしまったようです。そのうちに通電するような箇所を嘴と足で触ってしまい、体の中を電流が通り抜けて感電死したと考えられます。

解剖の結果から死因は感電であることを発見者に伝え、東京電力に連絡してもらったところ、電線が露出している箇所が見つかりました。その部分をカバーしてもらい、一件落着となりました。

今回の事例ではたまたま前年に拾得されていた個体が冷凍保存されており、死因を特定できたことで東京電力に対処をお願いし、次の事故を防ぐことができました。同じ場所で5羽も死んでしまったのですが、電柱の部品をつついて事故死してしまうほど、ハシボソガラスの興味を引いた部品がなんだったのかは謎でした。好奇心旺盛な種だけにこのような事故にあいやすいのかもしれません。

(文・写真 いわみ・やすこ)

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