鳥類標識調査

仕事の実際と近年の成果

2015年4月16日掲載

明らかになってきたムナグロの渡り
〜日本は重要な中継地〜

4月から6月にかけては、シギ・チドリ類の春の渡りのシーズンです。日本で観察されるシギ・チドリ類の多くは、北半球の高緯度地方で繁殖し、熱帯地方や南半球で越冬する長距離の渡り鳥で、日本を春と秋に通過します。近年の調査研究でこのうちの1種、ムナグロのダイナミックな渡りのようすが明らかになってきました。これについて、広居特任研究員がご紹介します。

山階鳥研 特任研究員 広居忠量

ムナグロ(写真1)は4月上旬から日本各地の水田などに姿を見せる大型のチドリですが、その渡りに関する興味深い研究結果を簡単に紹介しましょう。ムナグロはシベリア極北部からアラスカ西部沿岸にかけてのツンドラで繁殖し、東南アジア、中国、太平洋諸島、オーストラリア等で越冬しています。

ムナグロ

写真1 本稿で紹介した研究でサモアで標識されたムナグロ。
(2014年4月26日 成田市内で桑野信男氏撮影)

ここ10年位、アメリカ合衆国のグループがムナグロの生態をアラスカの繁殖地とハワイや太平洋諸島の越冬地で研究していますが、2009年と2010年にアラスカと越冬地であるアメリカ領サモアでデータロガー(注1)を装着して渡りの経路、中継地などを調べました。ここで分かった渡りのルートを図1に示します。繁殖地からの秋の渡り(紫のルート)は太平洋をノンストップで越冬地まで南下し、春(空色のルート)は越冬地から北西に進んで主に日本に立ち寄り、そこから北または北東に進路を取って(黄色のルート)ロシアやアラスカの繁殖地に渡ることが分かりました。図に見るように年間では大きな時計回りの渡りをしていることになります。日本には平均3週間も滞在し、ムナグロにとって日本が重要な中継地であることも論文中で強調されています。これが我が国ではムナグロは春に多く、秋にはやや少ない理由の一つでしょう。

ムナグロの渡りルート

図1 ムナグロの渡りルート
(Johnson 他 2012(注2) を一部改変)

山階鳥研のデータベースには海外でカラーフラッグやカラーリングを用いて標識されたムナグロの観察記録が16例あり、11例はここで紹介したアメリカのグループが標識したものです。このうち、太平洋諸島で標識された7羽のうちの5羽、アラスカで標識された4羽のうち2羽は春期に観察され、彼らの結論を裏付けています。しかし残りの5例は越冬期にオーストラリア南部で標識されたもので、面白いことに太平洋諸島で越冬する個体群と異なり全て秋に観察されています。渡りルートの解明はなかなか一筋縄ではいかないようですね。

(ひろい・ただかず)

「山階鳥研NEWS 2015年3月号」より

(注1)照度や温度など、刻々変化する情報を計測・集積する装置。後刻回収してその記録を取り出し解析する。最近では1g程度のごく軽いものもある。

(注2)Johnson O.W. et al. 2012. New insight concerning transoceanic migratory pathways of Pacific Golden-Plovers (Pluvialis fulva). Wader Study Group Bulletin 119: 1-8.

標識シギ・チドリ類の観察記録ウェブサイトで公開しています

カラーフラッグは関係国の間で捕獲する場所ごとに色や装着場所が決められており、どこで標識された個体かが特定できます。カラーリングは主に個体識別用に利用されていますが、最近、フラッグに文字や数字を刻んで個体識別する方法も広まってきています。これらの観察記録から渡りのルートを解析する国際的な事業に山階鳥類研究所も1991年から参加しています。多くのバードウォッチャーのご協力を得ながら作られたこのデータベースを私どものウェブサイト「渡り鳥と足環 フラッグ付きシギ・チドリの観察記録」ページで是非一度ご覧下さい。

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