2015年11月18日掲載
東南アジアから日本へ渡来して繁殖する、ツバメ、オオヨシキリ、コムクドリ、カッコウの4種について、この50年の間に得られた、環境省の鳥類標識調査と気象庁の生物季節調査(初認日調査)の結果を分析し、比較検討したところ、ツバメ、オオヨシキリ、コムクドリの成鳥および巣内雛では、出現時期の早期化が認められました。この研究によって、鳥類標識調査データが長期にわたる鳥類の生息状況のモニタリング等に有用であることが示されました。
鳥類標識調査はカスミ網などを使って、鳥類を捕獲し、個体識別用の足環を装着して放鳥するもので、始まった当初は、鳥類の渡りや寿命などの生態を明らかにすることが主な目的でした。近年、人為的な要因による環境の変化が問題になってきたのに伴い、生息状況のモニタリングへの活用の可能性が世界的に探られています。
分析の結果、ツバメ、オオヨシキリ、コムクドリの成鳥および巣内雛は、この50年の間で出現時期の早期化が認められました。さらにこの3種の成鳥と巣内雛の出現時期は、気温が高い年ほど早期化する傾向が見られました。この早期化の速度は、一部を除いて欧米の先行研究の結果から大きな逸脱が見られなかったことから、地球規模の温暖化に対する対象種の等しい応答である可能性が示唆されました。
なおカッコウで早期化の傾向が見られなかったのは、本種が減少の傾向にあるために、観察頻度が減ることによって温暖化に対する応答が打ち消されてしまったと考えられました。
標識調査を生物季節調査とあわせて検討することで、単独のデータでは分からない個体数の変化について検討することが可能になり、ツバメでは渡来数が減少している可能性が示唆されました。これらの結果は、半世紀以上にわたって蓄積されてきたビッグデータである標識調査情報が、適切な分析によって、気候変動に対する鳥類の生息状況のモニタリング等に有用であることを示すものです。
山階鳥研は、1961年から鳥類標識調査に携わっており、72年以降は環境庁(現環境省)の委託事業とし、多くのボランティアの協力も得て実施しており500万羽以上のデータが蓄積されています。
本研究は文部科学省科学研究費補助金特定奨励費事業「山階鳥類研究所データベースの構築と公開」の一環として行われました。
本研究の結果は、左記論文に発表しました。出口智広・吉安京子・尾崎清明・佐藤文男・茂田良光・米田重玄・仲村 昇・富田直樹・千田万里子・広居忠量.2015. 日本に飛来する夏鳥の渡りおよび繁殖時期の長期変化.日本鳥学会誌64巻1号39ー51頁.