研究・調査

鳥の学問を発展させる資料の
拡充・管理・公開に関する研究事業

2023年11月9日掲載

山階鳥研では、文部科学省科学研究費補助金(特定奨励費)を受けて、令和3(2021)年度から「鳥の学問を発展させる資料の拡充・管理・公開に関する研究事業」に取り組んできました(注1)。そのあらましについてご紹介します。

この研究事業は、平成30年度〜令和2年度に行った研究事業 「日本最大の鳥学関連資料の維持管理・拡充・公開に関する研究事業」を基本的に踏襲し、これらの資料群の適切な維持管理、拡充を行うとともに、積極的な情報公開によって、そこから得られた成果を社会に還元することを目指すものです。

資料の拡充

野外採集、寄贈受け入れ、交換、購入等により、標本、組織サンプル、図書および鳥学資料を拡充しています。また、野外で野鳥を安全に捕獲する技術が後世に伝えられるように記録されていない現状を鑑み、これらの技術を継承する目的で映像資料として記録・収集をしています。組織サンプルや標本からは、種同定を行うためのDNAデータバンク登録用データと食性の指標となる安定同位体比データを収集します。古い標本から安定同位体比データが得られれば、時代の変遷とともに食性がどう変化したかといった情報も得られるだろうと期待されます。

資料の管理

研究所が所蔵する標本、組織サンプル(肉片、羽毛、血液等)、図書および鳥学資料を研究者の利用に供するため、管理番号を与えて各資料の情報をデジタル化しています。これらを配架した標本庫や書庫は、資料の劣化を防ぐため、温湿度管理や清掃など日常的に管理を行っています。鳥学資料には当研究所創設者の山階芳麿博士の研究資料や、研究者の遺族から寄贈を受けた鳥学研究に関する文書、写真類が含まれ、この唯一無二の資料も研究者の利用に供するため管理番号を与え、写真撮影を行い、状態を記録して収蔵しています。これら所蔵資料の利用を希望する国内外の研究者への対応も行っています。

情報公開

標本は、当研究所が運営するウェブサイト『標本データベース』で、基礎情報(採集地、採集日等)を付して標本とラベルの写真を配信しています。そのほかに、X線CT画像、走査電子顕微鏡画像、紫外線画像も公開し、誰でも自由にダウンロードして研究に用いることができるようにしています。従来、世界の鳥類の和名リストとして活用されてきた『世界鳥類和名辞典』(山階芳麿, 1986)を最新の分類体系にあわせるべく改訂を行い、順次『山階鳥類学雑誌』で公表しています。『標本データベース』では和名以外にも最新の研究を反映させ、情報を更新しています。

組織サンプルは、当研究所ウェブサイトの「組織サンプルの提供」で収蔵状況を公開しています。DNAバーコードデータは、Consortium for Barcode of Lifeが運営するデータベース『Barcode of Life Data System(BOLD)』で公開しています。図書と鳥学資料は、当研究所が運営するウェブサイト『蔵書検索システム』で収蔵状況を公開しています。

蓄積された鳥学の知識・技術を社会に還元するため、学術雑誌『山階鳥類学雑誌』(年2回)を刊行し、また一般向けセミナーの開催や、質問窓口での対応も行っています。他機関との連携の強化を目的として、人材育成のための講習会・実習を開催しています。博物館との連携を通じ、データベース構築のノウハウなどを自己評価して、改良を行っています。

以上の計画は、文部科学省に認められ、令和3(2021)年度から令和5(2023)年度までそれぞれの年度5千6百万円で執行されました。

この研究の自己評価のための総括班の委員長を奧野卓司(元山階鳥類研究所所長)が、事務担当を髙橋敏之(所員)が務め、委員を遠藤秀紀(東京大学教授)、小川博(元東京農業大学教授、現山階鳥類研究所所長)、尾崎清明(山階鳥類研究所副所長)、高木昌興(北海道大学教授)、林良博(元国立科学博物館館長、現顧問)、真鍋真(国立科学博物館標本資料センターコレクションディレクター)、美濃導彦(理化学研究所理事)、綿貫豊(北海道大学教授)の各氏にお願いしました。令和5年度からは小川博が委員長を務めています。

(注1)文部科学省科学研究費補助金(特定奨励費)による研究活動として、これまで、「希少鳥類の生存と回復に関する研究」(平成13年度〜16年度)、「日本産鳥類資料の整備と活用に関する研究」(平成17年度〜平成20年度)、「山階鳥類研究所データベースシステムの構築と公開」(平成21年度〜平成26年度)、「日本最大の鳥学関連資料群の維持管理・拡充・公開に関する研究事業」(平成27年度〜平成29年度)、「日本最大の鳥学関連資料の維持管理・拡充・公開に関する研究事業」(平成30年度〜令和2年度)を行ってきました。


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