2017年5月12日更新
ここでは、山階鳥類研究所が保護活動を行なっている絶滅危惧種のアホウドリとは、どのような鳥かをご紹介します。(文中敬称略)
アホウドリはミズナギドリ目アホウドリ科に属しています。ミズナギドリ目にはアホウドリ科に加えてミズナギドリ科、ウミツバメ科、モグリウミツバメ科という科があり、いずれも子育ての期間以外は一生を海の上で過ごす生粋の海鳥です。アホウドリ科には22種がいて、いずれも○○アホウドリという名前がつけられています。このうち、18種は南半球、1種は赤道付近に住んでおり、3種だけが北半球に住んでいます。この3種のうち、名前のあたまに何もつかない「アホウドリ」が、山階鳥研が伊豆諸島の鳥島と小笠原諸島の聟島(むこじま)で保護活動をしている鳥です。残りの2種はアホウドリよりひと回り小さいクロアシアホウドリとコアホウドリで、この2種も日本国内で観察することができます。
アホウドリは150年ほど前には北大平洋西部の島々に分布していて、個体数は少なくとも数十万羽いたと考えられていますが、現在、全世界で伊豆の鳥島と尖閣諸島および小笠原諸島聟島列島でしか繁殖に成功しておらず、長谷川博(東邦大学)や米国研究者によると種としての総個体数は4500羽と推定されています。尖閣諸島の総個体数は300〜350羽程度と考えられ、全世界の個体数の大部分は鳥島に生息しています(長谷川, 2006)。アホウドリが減少してしまったのは、19世紀後半から20世紀前半にかけて人間が羽毛を採取するために乱獲したのが原因です。
アホウドリは、夏の間はずっと海の上で生活しています。その間は、海面上で休むか海の上を飛んでいるかのどちらかです。そしてこの夏の間、繁殖地の島を離れて太平洋を北上し、アリューシャン列島方面に移動することが最近の人工衛星を使った追跡調査であきらかになりました。一部はアラスカ、カナダからカリフォルニア沿岸にも達することが知られています。成鳥は、秋に繁殖地の島に戻って冬に子育てをしますが、5歳程度までの若い鳥は島には戻らず1年中海上で暮らします。食べ物は魚、イカ、オキアミなどです。
アホウドリは、絶海の孤島で集団で子育てをします。絶海の孤島は、場所は限られている反面、哺乳類などの外敵が来ることができないため安全な子育てができるので、餌さえ手に入れば集団で繁殖しても不都合はないのです。鳥の中には、林や草原で巣作りするものもいますが、これらの鳥では、ごく少数の例外を除いて互いの巣は離れており、それぞれの巣は目立たないように隠されて作られます。これは、餌の入手しやすさの問題のほかに、林や草原ではどこでも巣をつくることができる反面、集団では目立ってしまって外敵に狙われやすくなるので、分散して隠れた巣を作る方が好都合なためと考えられます。林や草原に住む鳥と孤島で巣を作るアホウドリとは好対照をなしています。アホウドリ以外にも、海鳥の中には孤島で集団で繁殖するものが多くいます。
アホウドリは寿命が長く、31歳でヒナを育てていた例が知られています(長谷川, 2006)。他のアホウドリ類では、コアホウドリで66歳という長寿記録があります(U.S. Fish & Wildlife Service, 2017)ので、アホウドリでもそのくらい長生きする可能性があります。
アホウドリが繁殖をはじめる年齢は遅く、早いもので5歳、平均で7歳程度です。美しい成鳥の羽色になるのは8〜10年かかります。1年に1回、1卵のみを産み、抱卵日数は64〜65日、ヒナが巣立つまでに4.5ヶ月ほどかかります。鳥の中には1回に何羽ものヒナを育てて、年に複数回繁殖する代わり、寿命はいたって短いというものもいますので、それに比べるとアホウドリは少産少死型といえます。外敵の少ない孤島で、自分は長生きして、子供は少なく産んで大切に育てるという人生設計なのです。しかしこの方針は外敵がほとんどいないことを前提としたものですので、思わぬ外敵が出現すると簡単にしてやられてしまいます。人間がアホウドリをいくらでも殺すことができたのも、一旦減ってしまうとなかなか数が戻らないのも、このアホウドリの生き方に大きく結びついているのです。
アホウドリは夏には北太平洋上で生活し、冬には繁殖地の島に戻って子育てをします。年間のだいたいのスケジュールは次のようです。
ヒナの餌は、親鳥が海でのみ込んできたイカ、オキアミ、魚等を吐きもどして口移しで与えます。親鳥がヒナより先に営巣地から離れ、遠くの海へ旅立ってしまい、ヒナは親の世話なしで数週間くらしてから巣立つのはミズナギドリ目ではよく見られる繁殖様式です。