山階鳥類研究所 アホウドリのページアホウドリ 復活への展望

現地報告 「聟島の一日」
小笠原諸島への再導入

2017年5月26日更新

アホウドリ再導入プロジェクトでは移送したヒナを聟島で人工飼育し巣立たせます。では、実際ヒナの飼育はどのように行われているのでしょうか?

2009年2月の7日間、ヒナの飼育が行われている聟島で、実際に飼育に参加して仕事のようすを取材しました。飼育チームの一日を追いながらその活動の様子をご紹介します。(文・写真:広報・平岡考)

(山階鳥研ニュース2009年5月号より)

聟島

聟島の飼育地は海に突き出したテーブル状の岬です。

聟島での仕事のあらましについては、飼育チームのリーダーである出口智広研究員に事前に聞いてはいたのですが、実際に現地で仕事をしてみて、飼育チームの24時間がアホウドリの飼育を中心に動いていることが実感できました。

このうち第一に印象に残ったことは、ヒナの感染症防止のための、餌の準備や給餌の際の衛生管理です。餌は当日の朝初めて解凍すること、器具類は海水で汚れを落としたあと石けん水、塩素水で洗浄・消毒すること、手袋をした手をいちいちアルコール消毒して作業すること、給水・給餌のためのチューブを個体ごとに取り替えることなど、十分な設備のない無人島の環境下で、条件にあわせた衛生管理の仕組みが作られていることがわかりました。

また、餌の準備の各段階で重量を記録し、水についても直接の給水量ばかりでなく餌の作成に使った水の量も記録することで、どれだけの栄養と水分を各個体が摂取したかを記録する手順が守られていました。これと、5日ごとに行われる体重測定、10日ごとに行われる翼長など各部位の測定によって、ヒナが順調に育っているかが把握でき、またアホウドリの成長と飼育に関するデータが蓄積できます。

給餌

聟島でアホウドリのヒナに給餌をする飼育チーム。

こういった飼育の作業工程は3年前のコアホウドリに始まり、一昨年のクロアシアホウドリの飼育実験、そして昨年のアホウドリでの飼育の本番という、3年間の経験が生かされて練り上げられてきたものと感じました。

飼育チームは、取材時、長期スタッフ3名、ボランティア2名と私の合計6名でした。ボランティアは昨年12月に山階鳥研のウェブサイトで募集したもので、約4ヶ月の飼育期間中に7名がそれぞれ約1ヶ月滞在して飼育に従事します。長期スタッフの交替スケジュールは数週間ごとに約1週間父島に戻って休養するように計画されています。チームは雰囲気もよく、協力しあいながら仕事をしていました。

聟島

交替要員を乗せた漁船吉祥丸から望む聟島。人の住む父島からは約3時間半かかります。

無人島でキャンプしながらの長丁場の仕事は、体力的にも精神的にもきついことがあると思いますが、きちんと設計された作業工程にそって、楽しんで仕事をしている飼育チームのメンバーを見て、非常に頼もしく、今年の巣立ちもよい成績になることを予感して1週間滞在した聟島を後にしました。


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聟島の一日

聟島飼育チームの毎日は決められたスケジュールに沿って流れます。
ここでは2月下旬のある日のようすをご紹介します。

ヒナのエサ作り

朝まだ暗い5時半に餌のイカ、トビウオ、オキアミを冷凍庫から取り出し、海で解凍します。


朝食が終わると、餌の解凍ができているので、海水でよく洗います。トビウオのエラには雑菌が入っている可能性があるので念入りに。


イカは口器(くちばし)だけを、トビウオはヒレだけ除いてあとは内臓や骨も含め全身を切り身にします。作業は手袋をした手をアルコール消毒して行います。


切り身はオキアミ、ビタミン剤と一緒にミキサーでミンチにします。

大きな容器2杯ぶんできあがったミンチを、給餌に使うコーキングガンのカートリッジにグラム単位で詰めてゆきます。

この時期、1羽に与える餌量がカートリッジ2本分になるので、15羽でカートリッジ30本になります。

ヒナの給餌作業

10時、ヒナに与えるミンチと水を背負って、キャンプを出発。上り下りの多い踏み跡を30分歩くと飼育地に到着します。

カートリッジは給餌前と後に重さを計り、個体ごとにどれだけ食べたかを記録します。

飼育地に到着したら、1羽ずつ水(海水を飲料水で希釈したもの)と餌を与えます。鳥があばれないよう保定する保定者、給餌者、補助者の3人が鳥に近づき、離れた場所で残る2(~3)人が次の個体に与える水と餌の準備をします。給水・給餌とも食道にチューブを差し込んで行い、チューブは個体ごとに取り替えます。また1個体給餌するごとに手袋をした手をアルコール消毒します。


後片付け

15羽に給餌し終わるのに2時間近くかかります。キャンプに帰ったらすぐに給餌器具を海水で洗います。

洗った給餌器具は夕方まで石けん水につけ込みます。夕方、再度海水ですすいだ後、翌朝使うまで、夜間は塩素入りの消毒液につけ込んでおきます。

昼食・自由時間

遅い昼食を取った後、夕方までが自由時間です。

散策をしたり、洗濯をしたり思い思いに過ごします。

夕食後の定時連絡

夕食後、衛星携帯電話で、学会参加のため聟島を一時離れている出口研究員に状況を報告します。また、物資とスタッフの運搬をお願いしている父島の漁船の船長さんに今日も無事であることの定時連絡を入れます。

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