2017年5月10日掲載
2名の学生レポーターが、本年1月、三井物産環境基金の環境コミュニケーションリポート(注1)のために、小笠原諸島聟島におけるアホウドリ再導入プロジェクト(注2)の現場に派遣されてモニタリング調査に参加しました。この2名は、このプロジェクトを6年という長きにわたり助成してくださった同基金の公募によって選ばれた人たちです。募集に際し、山階鳥研の出口研究員は、鳥という対象よりもむしろ「希少種保全」という行為に興味を持つ方の参加を希望しました。そのうちのお一人に、調査参加記をお願いしました。
(山階鳥研NEWS 2016年9月号より)
東京大学大学院 農学生命科学研究科修士2年 篠原直登
僕は、小笠原諸島の聟島(むこじま)という無人島に、現在その繁殖地が限られているアホウドリを人の手で定着させるという前代未聞なプロジェクトの一部として行われたモニタリング活動に参加させていただきました。僕自身、鳥が好きというわけではないのですが、現在世界中で起きている「生物多様性の喪失」という問題について大学院で研究しており、生物保全のための活動という意味で、アホウドリの再導入というこのプロジェクトにも以前から興味がありました。
今回のモニタリング活動で最もユニークだった点はやはり、初めての無人島での生活です。生き物を守りたいと口で言うのは簡単ですが、その現場での大変さやコストを知らないでそう口にするのは、軽率だと思っています。
実際、無人島での生活は(僕にとっては)思っていたよりも過酷で、荷物の搬送やキャンプ地の設置から始まり、食事や日々の暮らしは慣れないことばかりで体力的に辛いものがありました。特にテントでの睡眠が一番大変でした。地面自体が傾いているので、朝になると寝袋ごとテントの一辺に寄せられており、慣れないうちは夜の間に何度も目を覚ましてしまい疲れが取れなかったのを覚えています。
しかし夜はランタンの明かりの下でプロジェクトの面白い昔話や苦労話などを延々と聞きました(他にやることがないので、本当に毎日何時間も話していました)。昼間はモニタリングをしながら、一個体ずつ人間臭い個性を持っているアホウドリの行動を見て楽しみ、自由時間には海に出て釣竿を振ったりと、今では活動の大変さや苦労よりも、楽しかったことばかり思い出してしまいます。
山階鳥類研究所の出口さんがリーダーを務めるこのプロジェクトに参加し、お話を伺ってみて一番印象的だったのは、プロジェクトに多くの人に参加してもらいたいという出口さんの思いでした。現地の人々にアホウドリの生態や保全活動について知ってもらうため、なるべく小笠原諸島の住人の方々からボランティアを募っているそうです。生物の保全活動は労力やコストがかかることが多く、一人でできることは限られています。そのため、継続的に保全活動を行っていくためには、その活動が現地に強く根付くことが不可欠なのです。
僕が大学院で生態学を研究しているのも、将来、生物保全活動に関わっていきたいと思ったからです。今回の経験によって保全活動の大変さを身をもって体験でき、また、こうした活動の重要性を多くの人々に知ってもらうためには何が必要かということを今後考えていくきっかけとなりました。
(文・写真:しのはら・なおと)
(注1) 篠原さんたちの環境コミュニケーションレポートは「ナショナルジオグラフィック日本版」2016年4月号(140〜143ページ)に一部が掲載され、全文は「ナショナル ジオグラフィック日本版」のウェブページ「アホウドリの繁殖地復活を生き物保護のモデルケースに」に掲載されています。
(注2)この事業は、山階鳥研が、環境省、東京都、米国魚類野生生物局、三井物産環境基金、公益信託サントリー世界愛鳥基金、朝日新聞社等の支援を得て、新しい繁殖地を形成する目的で、伊豆諸島鳥島のアホウドリの雛を小笠原群島聟島に移送(2008~2012年)し、その後モニタリングを実施しているものです。