2021年7月12日掲載
小笠原諸島聟島におけるアホウドリの新繁殖地形成事業 (注)において、東京都の委託による山階鳥研の調査の結果、2020〜21年の繁殖期には、ひとつがいの産卵が確認されたものの、繁殖成功はなかったことがわかりました。
2020年11月21〜24日、2021年1月8〜14日、2月8〜16日、3月6〜13日に油田照秋(ゆた てるあき)保全研究室研究員ほかの現地調査チームが聟島(むこじま)に渡り、飛来状況等のモニタリング調査を行いました。この結果、アホウドリは、合計7羽が個体識別され、その他に、少なくとも2羽が周辺を飛翔、または海上にいるのが観察されました。
11月の観察では、足輪なし個体の抱卵が観察され、1月の観察で、つがい相手は、聟島に移されて2009年に巣立った個体(足環番号Y11) であることが判明しましたが、1月までに抱卵は中止されており、繁殖成功には至りませんでした。前シーズンまで5年連続で繁殖成功していた、Y01(愛称イチロー)と足環なし個体(愛称ユキ) のつがいは、今シーズンはユキの帰還が観察されず、繁殖は行われませんでした。
今シーズンは聟島で移送個体から生まれた「第2世代」の個体として、Y75(2016年5月に巣立ったイチローとユキの子、5歳)とY76(2017年5月に巣立ったイチローとユキの子、4歳)の2個体が前シーズンに引き続いて観察されました。このうち、Y75は足環なし個体と求愛行動を続け(写真)、長時間2羽で休憩するようすが観察されました。この事業の最終目標は小笠原諸島に本種の安定した繁殖地ができることですが、そのために必要不可欠な「第2世代」の繁殖成功が待たれます。
聟島では、アホウドリの誘引のため、繁殖期にデコイ(アホウドリの実物大の模型)30体と、音声再生装置を設置しています。
注)この事業は、小笠原諸島聟島にアホウドリの新しい繁殖地を形成する目的で、伊豆諸島烏島で生まれたアホウドリのヒナを聟島に移送(2008〜12年)して人工飼育により巣立たせ、その後の動向を継続してモニタリングしているものです。山階鳥研が、環境省、東京都、米国魚類野生生物局、三井物産環境基金、公益信託サントリー世界愛鳥基金等の支援を得て実施しています。
2021年2〜3月にかけて、伊豆諸島鳥島のアホウドリの調査を、環境省の請負事業として行った結果、鳥島全体でのアホウドリのヒナ数は784羽となり、鳥島のアホウドリ個体群の総数はおおむね6,500羽以上まで回復したと判断されました。
鳥島の調査は、2月25日から3月17日まで富田直樹保全研究室研究員ほかの現地調査チームが実施しました。この結果、「デコイ作戦」として山階鳥研が1992年から2006年まで誘致を行ってアホウドリの新たな繁殖地を確立することに成功した初寝崎(はつねざき)で、395羽のヒナを確認しました。また、従来の繁殖地である燕崎では306羽、燕崎から崖を登った場所で、近年繁殖が始まった子持山では83羽が確認されました。それぞれ、前年比、10.0%増、14.8%減、59.6%増で、総数は1.8%増でした。
本種の鳥島個体群の総個体数を今回の調査結果をもとに推計したところ、おおむね6, 500羽以上まで回復したと判断できました。
近年の研究で主に鳥島と尖閣諸島で繁殖するアホウドリの間には遺伝的、生態的、形態的な差異が見られ、保全上別種として管理するべきであろうことがわかっています(本紙2021年3月号参照) 。「センカクアホウドリ」は鳥島および聟島でも確認されていますが数は非常に少なく、主な繁殖地である尖閣諸島は2001年を最後に現地調査が行われていません。現地調査に加え、鳥島聟島両島でのモニタリング調査が今後更に重要になります。