2022年5月12日掲載
小笠原諸島聟島におけるアホウドリの新繁殖地形成事業(注)において、東京都小笠原支庁からの委託で山階鳥研が実施しているモニタリング調査の結果、2021〜22年の繁殖期には、2羽のヒナが孵化し、そのうちの1羽は、聟島で人工飼育されて巣立った個体を第1世代とした時の孫に当たる第3世代でした。第3世代にあたるヒナの誕生は初めてであり、1シーズンに複数のヒナが孵化したのも初めてのことです。
2022年1月8日から16日に油田(ゆた)照秋 研究員ほかの現地調査チームが聟島(むこじま)に渡り、飛来状況等のモニタリングを行いました。その結果、2016年に、足環番号Y01(オス、愛称:イチロー)の最初の子として生まれた個体(オス、足環番号Y75、愛称: みらい) が帰還し、別の野生個体(足環なし)とつがいになって営巣していた巣でヒナが孵化したことが確認されました。イチローは、2008年から2012年まで伊豆諸島鳥島から移送して人工飼育した個体のうち、最初の2008年に巣立った個体です。今回生まれたヒナは移送飼育個体の孫に当たる、第3世代としては初めての個体です。
また同時に、イチローと、今シーズン新しくつがい相手になった2009年移送飼育個体(メス、足環番号Y11)の巣にも、ヒナが孵化したことが確認されました。新繁殖地である聟島で複数のヒナが誕生したのは事業開始以降初めてのことです。
人の手がかかっていないアホウドリのつがいからヒナが誕生したことは、個体群が自立し、今後自然に個体数が増加していくことを期待させます。また、アホウドリは通常大規模な集団繁殖地(コロニー)を作って営巣する習性を持ちます。聟島で複数のヒナが誕生したことは、第3世代の誕生に合わせ新繁殖地形成に向けて大きな進展となりました。
2月、3月のモニタリングでも2羽のヒナは順調に成長していることが確認され、3月の調査時には個体識別のための足環が装着されました。ヒナは5月初旬頃に巣立つことが予想されます。無事に巣立って、また数年後聟島に戻って繁殖してくれることを期待しています。
(注)この事業は、山階鳥研が、環境省、東京都、米国魚類野生生物局、三井物産環境基金、公益信託サントリー世界愛鳥基金等の支援を得て、国の特別天然記念物であり絶滅危惧種であるアホウドリの保全のため、小笠原諸島聟島に新しい繁殖地を形成する目的でおこなっています。伊豆諸島鳥島で生まれたアホウドリのヒナを移送(2008~2012年)して人工飼育により巣立たせ、音声とデコイによる誘引(2007年~)をし、その後の動向のモニタリング調査を実施しているものです。