2024年7月11日掲載
山階鳥研では、小笠原諸島聟島にアホウドリの新繁殖地を形成するため、保全活動やモニタリングを行っています。今シーズンの繁殖期(2023-24)は、聟島でこれまでで最多となる3羽のヒナの誕生が確認されました。ヒナや繁殖するペアが増えると若鳥が誘引され、聟島での自然繁殖はさらに増加することが期待できます。
山階鳥研では、伊豆諸島鳥島(以下、鳥島)と小笠原諸島聟島(以下、聟島)で、アホウドリの繁殖状況についてモニタリングを実施しています(※1)。アホウドリの繁殖期は10月から翌年5月までで、1ペアで1羽のヒナを育てます。ヒナは巣立ちから3〜5年ほど経つと、巣立った場所に戻ってきて繁殖に参加するようになります。しかしすぐ繁殖に成功するわけではなく、ヒナを巣立たせるようになるまでさらに数年がかかることがあります。
アホウドリは、かつて羽毛採集のために大量捕獲されたことが原因で、絶滅したとまで言われましたが、鳥島で再発見され、その後の関係者の手厚い保全活動により現在約8,600羽にまで回復しています(※2)。しかし、鳥島は火山島で繁殖地としては不安定なことから、かつての繁殖地であった聟島に鳥島からヒナを移送して人工飼育し、これらの個体をもとに新繁殖地を形成させる事業が2008年から2012年にかけて実施されました。現在は、鳥島と聟島でアホウドリのモニタリングを毎年、年に数回行っています。
2008年に移送され巣立った個体が聟島に戻ってくるようになったのは2011年でした。この個体は2012年には野生個体とペアになり、2015年まで毎年産卵がみられましたが、孵ふ化しませんでした。ところが、繁殖開始から4年目、移送開始から8年目の2016年になって、このペアから初めてヒナが誕生しました。これは初めての聟島生まれのヒナです。その後、このペアは5年連続でヒナを巣立たせることに成功しました。
2022年、2023年には繁殖に成功したペアは2組となり、2年で計4羽が巣立ちました。そして、2024年はついに3ペア目も卵を孵化させ、初めて1シーズンに3羽のヒナが確認されました。ヒナにはすべて個体識別のための番号がついた足環がつけられます。
1シーズンに誕生するヒナの数が増えるということは、個体数の増加を意味するだけでなく、聟島周辺に飛来する別の個体にそこが繁殖適地であるというアピールになり、ここで営巣するペアの増加につながります。鳥島での観察から、10ペア以上が安定して繁殖するようになれば、繁殖地として自立できると考えられます。現在の状況から、聟島が安定した新繁殖地になるという目標の達成に向かって着実に進んでいると言えるでしょう。
※1:鳥島は環境省からの委託、聟島は東京都小笠原支庁からの委託。
※2:鳥島では今シーズンに1,173羽が巣立ったと考えられ、順調に個体数が増加している。
注:聟島での新繁殖地形成事業は、(公財)山階鳥類研究所が、環境省、東京都、米国魚類野生生物局、三井物産環境基金、公益信託サントリー世界愛鳥基金、朝日新聞社等の支援を得て、アホウドリの保全のため、聟島に新しい繁殖地を形成する目的で、鳥島のヒナの移送(2008〜2012年)と音声とデコイによる誘引(2007〜2022年)を行った。