読み物コーナー

2022年4月6日掲載

バードウォッチャーの力で描いた日本の繁殖鳥全種の分布図
~全国鳥類繁殖分布調査 無事完了~

1970年代に第1回が行われた、全国鳥類繁殖分布調査は日本全国の鳥類の繁殖状況を把握するもので、日本の自然環境の状況を知るための重要な調査です。日本野鳥の会、山階鳥研、環境省などが参加した、鳥類繁殖分布調査会が2016年から行っていた第3回調査の結果が2021年10月にまとまり、発表されました。この調査会の事務局をつとめた、認定NPO法人バードリサーチの植田睦之さんに調査の趣旨やいきさつ、結果のあらましについて紹介いただきました。

山階鳥研NEWS」2022年3月号より

認定NPO法人 バードリサーチ代表 植田睦之

20年に一度の鳥の国勢調査

全国鳥類繁殖分布調査は1970年代、1990年代に環境省により行なわれた鳥の国勢調査ともいえるような調査です。全国を20kmのメッシュに区切り、そこの代表的な環境に2つの調査地(3kmのルートと2つの定点)を設置して全国まんべんなく現地調査を行ないます。さらに文献やアンケート情報を収集して情報を補完して、分布図を描くという大規模な調査です。

1990年代に行なわれた2回目の調査から20年が経ち、3回目の調査の時期が来たのですが、環境省では予算獲得のめどが立たないということでした。この重要な調査をここで終わらせては・・・と思い、鳥関係のNGOが中心となって環境省、研究者、バードウォッチャーの共同調査として実施することにしました。バードリサーチが事務局となり、山階鳥類研究所をはじめとした6団体が主催団体となり、研究機関や各地の野鳥観察団体の協力を得て調査をスタートしました。

サンコウチョウ分布変化

図1 サンコウチョウの分布の変化。1990年代は近畿から南東北にかけての地域で分布が縮小していたのが、2010年代になって全国的に大きく分布拡大しているのがわかる。

ヤマセミ分布変化

図2 ヤマセミの分布の変化。北海道を除き、全国的に分布が縮小しているのがわかる。

2,000人以上で全国を調査

全国に配置されたコースは2,000コース以上。さらに全国にまんべんなくコースが配置されているので、調査コースは人の行きにくい山奥や離島にも多くあります。調査開始時は「70〜80%調査ができれば大成功だな」と思っていたのですが、2,000人以上のバードウォッチャーが各地をまわってくれて、無人島になって行けなくなってしまった場所を除き、全コースを調査することができました。また、不安だった資金面も多くの基金からの助成をいただくことができ、現地調査にかかわる経費も払うことができました。

こうしたたくさんの方の参加・協力のおかげで379種の鳥が記録され、うち繁殖の可能性のある278種の分布図を描くことができました。

調査中の参加者

調査中の調査参加者

増加傾向にある森の鳥

今回の調査で得られた結果を過去の結果と比べることで日本の鳥の変化が見えてきます。まずはうれしい変化からご紹介します。森の鳥の増加です。1980年代、森の鳥、特に夏鳥の減少が心配されていました。バードウォッチャーのあいだではサンコウチョウ(図1)やアカショウビンの減少が話題にのぼることが多くなり、サンショウクイはレッドリストに掲載されるまでになりました。そうした鳥を含めた多くの森の鳥が分布を拡大し、増加していました。

その原因はおそらく森の成熟です。林野庁の統計資料によると、日本の森林面積には大きな変化はありませんが、森林蓄積量は大きく増加しています。こうした森林の成熟により、森の鳥にとってよい状況が生まれてきたのだと思います。さらに市街地でも街路樹が生長したり、公園の樹木も大きくなったりして、街にも森の鳥が生息するようになっています。ただ、森のすべてが良い状況にあるわけではなく、コマドリなど藪(やぶ)に生息する鳥は減少傾向にあり、ウグイスも大きく減少している調査地がいくつもありました。こうした場所では、シカの増加により笹薮がなくなっていて今後の変化が心配です。

アカショウビン

バードウォッチャーに人気のアカショウビンも、うれしいことに分布を拡大していた(写真: 三木敏史)

農地や水辺の鳥は減少

森の鳥が増加している反面、開けた場所に生息する鳥には減少している鳥が多くいました。特に減少度合いが大きかったのが小型の魚食性の鳥でした。コアジサシや小型のサギ類、ヤマセミ(図2)などです。大型の魚食性の鳥は増加傾向にあるので、そうした鳥との競争、ブラックバスなどの外来魚の影響で食物となる小型の魚が減っていることなどが原因として考えられます。

また、スズメやツバメなど身近な鳥たちは分布こそかわらないものの、記録個体数が大きく減少していました。スズメの減少は10年以上前から言われていて、その原因を探る調査が北海道教育大学の三上修さんなどにより行なわれていました。それによると、都市では巣立ちビナ数が少ないとか、新しい住宅地には巣を作れるような隙間(すきま)が少ないなどといったことがわかり、都市部で減少原因が多いように思っていました。ところが今回の調査で見えてきたのは主要な生息地である農地の多い環境での大きな減少です。何が起きているのか、さらなる調査が必要そうです。

スズメ

日本人にとって一番身近な鳥の1 つのスズメは大きく数を減 少させていた(写真: 三木敏史)

保護への活用と調査の未来

この調査では、飛翔採食性の鳥の減少、分布標高の変化など様々なことがわかってきました。最終報告はどなたでもダウンロードできるようになっていますので、興味のある方はご覧ください。

今後はこの結果を研究者の皆さんと一緒に解析したり、参加者の皆さんと追加調査をしたりしながら、増減の原因を明らかにしていきたいと考えています。そしてレッドリストの改訂や保護区の選定など様々な保護施策にも活用していきたいと思います。

また、こうした調査は継続することが重要です。20年後にも、ぜひ調査をしたいと思っています。20年後はどんな未来が待っているのでしょうね。ぼくもそのころは60代後半。調査員の高齢化は大変だと言いながら、調査しているのでしょうか。それともロボットカメラで調査するようになっていて、人が行なった今回の調査とどうやって比較しようかと悩んでいるのでしょうか?20年後に向けて、今からできることを進めていきたいと思います。 

(文 うえた・むつゆき)

全国鳥類繁殖分布調査全国鳥類繁殖分布調査

鳥類繁殖分布調査会:認定NPO法人バードリサーチ、(公財)日本野鳥の会、(公財)日本自然保護協会、日本鳥類標識協会、(公財)山階鳥類研究所、環境省 生物多様性センター

最終報告書「自然環境保全基礎調査 全国鳥類繁殖分布調査報告 日本の鳥の今を描こう 2016-2021年」(2021、鳥類繁殖分布調査会発行)は、下のリンク先からダウンロードしていただけます。

https://www.bird-atlas.jp/pub.html


>>合わせてご覧ください
「見えてきた日本の鳥の現状〜全国鳥類繁殖分布調査 全国で調査実施中〜」(2017年11月号)

このページのトップへ