読み物コーナー

所員エッセー

2023年8月23日掲載

富士山における鳥類研究のこれまでと展開

研究員 森本元

富士山は日本人なら誰でも知っているだけでなく、国外にまで名が通っている山です。日本一高く、年間数十万人が登山する火山の単独峰。この富士山での鳥類研究は私のライフワークとなっています。標高3,776メートルを誇り、静岡県・山梨県の多数の市町村にまたがる富士山は広大で、その自然環境はとても多様です(図1)。

富士山写真
富士山の森林帯

図1 富士山。さまざまな植生環境を含む豊かな自然環境があり、鳥種も豊富。(上:全景、下:富士山の亜高山帯森林)

植物の生えない高山帯から、中腹の森林、さらに麓(ふもと)の草原や富士五湖の水域まで、環境が「なんでもある」と言っても過言ではありません。私はこの富士山の亜高山帯にて、大学院修士課程だった約25年前にルリビタキの研究を始めました。その後、現地で興味を持ったメボソムシクイの生態や、大学院博士課程の指導教員だった上田恵介さん(立教大学名誉教授/現 日本野鳥の会会長)の提案もあり托卵鳥であるジュウイチの研究を同室の大学院生(田中啓太さん)と一緒に行うなど、研究の幅が広がっていきました。最初は亜高山帯・高山帯のみだったのですが、興味の拡大とともに調査範囲も広がっていき、当時同世代の仲間たちと麓の青木ヶ原樹海でキビタキの研究を始めました。しかしこの研究はうまくいかず一度は自然消滅。その後、実質二人(私と高木憲太郎さん/現 バードリサーチ理事)で細々と続けていたのですが、この研究を行いたいと大学院に進学してきてくれた学生(岡久雄二さん/現 人間環境大学助教)により、この研究は大きく発展しました。その後、私はさらに調査範囲を広げ、富士山の一部でなく全体の鳥類を調べ始めました。垂直分布を中心とした鳥類相や、ほかの鳥たち(イワヒバリ等)の生態研究などです。さらに、ルリビタキで始めた羽色研究は、本種にとどまらず発色の仕組みやバイオミメティクス研究へと広がりました。その後、約10年前に当研究所に着任したのですが、中断することなく現在までずっと、富士山は私自身の主なフィールドの一つであり続けています。

図2(左)動物の体色がわかる図鑑・グラフィック社。鳥類を含む各動物の発色の仕組みや機能を解説した1冊。
図3(右)富士山バードウォッチングガイド・文一総合出版。富士山全体の解説をはじめ、多数の探鳥地や生息鳥種を紹介した1冊。

成果をいくつかご紹介すると、ルリビタキに見られる特徴的な雄の羽色二型の研究や、発色メカニズムの研究があります。ルリビタキの青色は色素色ではなく構造色という仕組みで発色しています。多くの動物において雄の派手な色は、雌への求愛や雄同士のなわばり争いに関連し、色の種類や発色の仕組みも多様です(詳細は図2の近著参照)。ほかにも前述の、ヒナが自身の翼にある黄色斑を嘴と誤認させて托卵先の仮親に餌を多く運ばせるジュウイチ研究や、メボソムシクイ ヒナへの給餌における雄親と雌親の分担バランスの研究などが成果の一例です。富士山各地での研究はバードウォッチングガイドの出版へもつながりました(図3)。また、山地研究を富士山以外の他山へも広げました。同時期に、連携大学院教員として指導した学生(飯島大智(だいち)さん/現 東京都立大学特別研究員)は、近年、日本アルプス(乗鞍岳)での共同研究成果を発表しています。このように多くの方々のおかげもあり、対象鳥種や研究分野を限定せず、私の山地鳥類とその関連研究はさらなる広がりを見せています。

(写真・文 もりもと・げん)

「山階鳥研ニュース」 2023年7月号より

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