鳥類標識調査

仕事の実際と近年の成果

2023年11月30日掲載

オーストラリアの足環が付いたベニアジサシが
ノラネコに捕食されました

ベニアジサシは、ヨーロッパやアフリカ、北アメリカなどに生息する海鳥で、日本周辺ではオーストラリアから渡来して沖縄周辺で繁殖しているものが観察できます。沖縄県の漁港でノラネコに捕獲された様子が撮影され、昨今懸念されているネコの捕食による鳥類への影響の深刻さがうかがえます。捕獲された個体に足環が付いていたことに気がつき、そのゆくえを追った尾崎清明 副所長の所員エッセーもあわせてお読みください。

山階鳥研ニュース」2023年9月号より

6月22日、沖縄県うるま市勝連(かつれん)半島の漁港で、ノラネコが防波堤の上で休息するベニアジサシを捕獲し、口にくわえて運ぶ様子が撮影されました。待ち伏せをしているノラネコの足元にも死体が写っており、少なくとも2羽が捕獲されたことがうかがえます。

写真 ベニアジサシを狙うネコ

堤防にとまるベニアジサシを狙うネコ、足元にすでに死体がある(上原勝さん撮影)

沖縄県では、これまでもノラネコによってヤンバルクイナが捕食されていることがわかっていましたが、ベニアジサシでの報告は初めてです。ベニアジサシの繁殖数は近年減少傾向にあり、影響が心配されます。

写真に写った個体には鳥類標識調査(※注)の金属足環が付いていたため回収して調べたところ、約6,000km南のオーストラリア・クイーンズランド州・スウェイン礁で、2002年1月12日に標識されたもので、21歳以上であることが判明しました。

写真 ベニアジサシをくわえるネコ

ベニアジサシをくわえるネコ(上原勝さん撮影)、足環が付いている(拡大)

オーストラリアでこの個体に足環を付けた研究者、ポール・オニールさんは次のようにコメントをしました。

「私たちは、2002年1月12日にスウェイン礁(グレートバリアリーフ海洋公園)で足環を付けました。オーストラリアと沖縄との間の長距離往復飛行に何度も成功したのに、ネコに捕食されるという非常に悲しい結末。たくさんの子孫を残してくれていたらいいですね!ベニアジサシはオーストラリアでは主にネコのいない遠隔島にしか生息していないため、こちらにいる間はネコから安全であるようです。ただしオーストラリアのほかの鳥類や哺乳類の種について、その多くは主にネコの捕食によって急速に絶滅に向かっています」

ノネコやノラネコが野生鳥類を捕食することによる影響は、世界中で懸念されています。伊豆諸島御蔵島のオオミズナギドリ(海鳥、IUCNのレッドリストで準絶滅危惧種)の繁殖地では1970年代後半に175万~350万羽が生息していましたが、近年10万羽程度に激減しており、その一因がネコであると考えられています。ネコ1匹あたり平均で年間に313羽のオオミズナギドリを捕食するという推定もされています(プレスリリース「準絶滅危惧種オオミズナギドリの大規模繁殖地が危機に」

※注 鳥類標識調査:鳥類を捕獲し、個体識別用の足環を装着して放鳥する生態調査。鳥類の国内外の渡りや寿命などの生態を明らかにする目的で実施されている。近年は、鳥類生息状況のモニタリングのためにも活用されている。日本では環境省の委託事業として、山階鳥研が、多くのボランティアの協力のもとに実施している。

このページのトップへ