2018年11月22日掲載
1930年に山階芳麿博士が鳥島に上陸して調査をするなど、山階鳥研は戦前から現在に至るまでアホウドリ保護活動に携わってきました。
一時は絶滅したと見られていたアホウドリも、様々な保護活動の結果、現在約4400〜5000羽程度まで回復したと考えられています(2017年度時点推定)。山階鳥研では、環境省の保護増殖事業を受け、繁殖つがいとヒナの計数を行い、また繁殖状況のモニタリング(現状を把握し問題点を洗い出すために行う観察記録調査)を行っています。
この項では、山階鳥研がアホウドリの重要な生息地、伊豆諸島の鳥島で行っているモニタリングとその意義についてご紹介します。(注1)
*アホウドリの歴史とこれまでの保全活動について年表にまとめましたので合わせてごらんください。 >>年表「アホウドリ保全活動と山階鳥研のかかわり」
鳥島にはアホウドリの繁殖地が3カ所あります。そのうち最大の繁殖地が従来繁殖地の燕崎(536つがい)、その次はデコイなどを使って誘致した新繁殖地の初寝崎(274つがい)、そして燕崎上部に近年形成された子持山(注2)(16つがい)です(図1)。※いずれも2017年のデータ
鳥島でのモニタリングは、2〜3月の繁殖期を中心に、営巣地より約80メートル離れた場所から、7:00〜17:00までの10時間、常時2〜3人で双眼鏡やスコープを使って観察します。鳥島はほぼ傾斜地であり、強風、雨にさらされることも多いため、調査は忍耐の連続です。(写真1、2)
毎正時(00分)には着地しているアホウドリの数をカウントし、また1日3回は詳細な着地位置も記録します。巣にはそれぞれ個別の番号をつけ、ヒナへの給餌、ダンスなど、特記すべき行動や個体年齢(羽色から推察)と、可能であれば足環番号を記録します(図2)。
このようなモニタリングで得られたデータを蓄積し解析することにより、アホウドリの生態や、保全活動に必要な情報を得ることができます。
アホウドリの着地個体数は早朝および午前に少なく、午後に増加し始めて、夕方にもっとも多くなります。そのまま夜を繁殖地で過ごして、夜明け前の明るくなる直前から徐々に飛立ちます。これまでの調査から、繁殖地で夜を過ごす個体は翌年以降同じ場所に定着する可能性が高いことが分かっています。また、着地個体数は繁殖つがい数やヒナの数に連動していると考えられますので、次シーズンの繁殖状況を予測する上でも重要な情報となります。
初寝崎の毎正時平均着地数は2000年に平均2.4羽だったものが、2017年には276.5羽に増え、特に2004年以降に急増しました。これは、初寝崎の繁殖つがい数が増加して、繁殖している鳥に非繁殖鳥(若鳥)が誘引されたこと、また、1998年以降従来繁殖地(燕崎)の巣立ち雛数が毎年100羽以上に安定し、2001年以降帰還する若鳥が急増(毎年100羽以上)したことが大きな理由であると考えられます。
生まれたヒナの数を繁殖地別に比較してみると、2016-2017年の繁殖期(11月〜5月)では全ヒナ数522羽、内訳は①燕崎295羽(前年比-3.9%)、②初寝崎207羽(前年比+33.5%)、③子持山20羽でした(平成28年度国内希少種野生動植物種(アホウドリ)保護増殖事業報告書より)。従来繁殖地の燕崎では微減、新繁殖地の初寝崎では急増しています。
燕崎のヒナの数の推移は表1に示した通りですが、年により増加率にばらつきがあり、不安定であることがわかります。雛数の増加率の年平均は初寝崎が29.6%なのに比べ、燕崎では4.6%にとどまっていて、大きな開きがあります。
年 | 2-3月雛数 | 増加率(%) |
2001 | 157 | - |
2002 | 148 | -5.7 |
2003 | 162 | 9.5 |
2004 | 184 | 13.6 |
2005 | 148 | -19.6 |
2006 | 183 | 23.6 |
2007 | 209 | 14.2 |
2008 | 245 | 17.2 |
2009 | 268 | 9.4 |
2010 | 279 | 4.1 |
2011 | 271 | -2.9 |
2012 | 290 | 7.0 |
2013 | 297 | 2.4 |
2014 | 295 | -0.7 |
2015 | 326 | 10.5 |
2016 | 307 | -5.8 |
2017 | 295 | -3.9 |
燕崎繁殖地で生まれたヒナの数が不安定な原因として、燕崎の持つ環境的要因が考えられています。ヒナが急増している初寝崎繁殖地では2016年度に、飛翔障害(注3)となっていた周辺のハチジョウグワを伐採整備した結果、飛翔障害の心配が少なくなり、環境改善されました。
一方、約30度の急斜面に位置する燕崎繁殖地では、大雨が降った場合、火山から排出された軽い堆積物(スコリア)がこの斜面にある排水路を流れ下り、途中であふれ繁殖地に流れ込む可能性があります。心配していた矢先、2016年9月に排砂施工したばかりの中央排水路に、再び多くの砂が滞留し、一部があふ溢れて燕崎東側に流れ込み営巣地の一部を埋めているのが2017年になって確認されました。今後雨が降ればさらに上部から砂が流れ込み、営巣地を埋める懸念が大きいと危惧しています。今回は繁殖期ではなく、アホウドリへの直接の被害は確認されませんでしたが、次の繁殖期までに早急な対応策が望まれます。
繁殖地の環境不安を完全に取り除くことは難しくとも、今後も改善への努力が求められます。
鳥島のアホウドリ生息数は、順調に回復しているようにも見えます。しかし、火山の噴火や地盤の問題など、繁殖地にさまざまな不安定要因がある以上、ある日突然アホウドリがまた絶滅の淵におかれる可能性があるかもしれません。不安定要素を完全に取り除くことは難しくとも、問題点を早期に発見し、改善していくことが必要です。
山階鳥研は、アホウドリの生態を解明し、アホウドリを取り巻く様々な問題を改善するため、アホウドリが完全復活をする日まで繁殖地でのモニタリングを続けていきたいと考えています。
注1)アホウドリのモニタリングは小笠原諸島でも行っています。小笠原のモニタリングについては >>こちらのページ(聟島事後モニタリング)をご覧ください
注2)子持山は山階博士が動画を撮影した戦前最後の繁殖地と推測されている場所(参照 >>アホウドリの歴史ページ「急激な現象」)で、捕殺後埋められたアホウドリの骨が多く出土します。この繁殖地を保全することは大変重要と考えます。2005年に初めて1羽のヒナが巣立ち、その後徐々に数が増えつつあります。しかし、ここは火山噴火で噴出したスコリアの堆積した土地で、植物はほとんどみられません。アホウドリはわずかなススキの株近くを選んで営巣していますが、卵や雛が流されることも多く、今後営巣環境の改善が望まれます。
注3)アホウドリは助走を付けて飛び立つので、開けた土地が必要です。ハチジョウグワはクワ科の植物で、成長すると高さ3メートル以上にもなり、アホウドリの繁殖地保護の観点からハチジョウグワが生い茂ることを防ぐ必要がありました。なお、鳥島全体は天然記念物(天然保護区域)に指定されていて、植物の伐採には環境省の許可を受けています。