山階鳥類研究所 アホウドリのページアホウドリ 復活への展望

小笠原諸島への再導入

2017年6月7日更新

伊豆諸島鳥島で絶滅危惧種アホウドリの保護活動を行ってきた山階鳥類研究所では、2000年にアホウドリがアメリカの絶滅危惧種の指定を受けたことで組織された「アホウドリ回復チーム」の回復計画を受けて、引き続き鳥島個体群のモニタリングを続けながら、同種をいっそう安全な状態まで回復させるために、「小笠原諸島への再導入プロジェクト」を行うことになりました。

まず2005年から移住の候補地の選定その他さまざまな準備をおこない、2008年より5シーズン連続、合計70羽のヒナを鳥島より小笠原諸島聟島へ移送して巣立たせました。

ここでは、小笠原諸島への再導入プロジェクトの背景と実施、結果と事後のモニタリングについて解説します(文中敬称略。山階鳥研NEWS 2005年5月号「アホウドリを小笠原諸島へ」をベースに最新の情報を追加したものです)。

小笠原諸島への再導入 目次

アホウドリの歴史

現在伊豆諸島鳥島と尖閣諸島のみで集団繁殖しているアホウドリですが、歴史的には非常に大きな個体数が北西太平洋の島々に広く繁殖分布していました(図1)。それが、明治時代以降、羽毛採取を目的とした濫獲によって次第に分布を狭め、最後の繁殖地とされた伊豆鳥島でも1949年には絶滅したとされました。その後、1951年になって鳥島で再発見され、1971年には尖閣諸島南小島でも少数の生息が確認されたのです。

伊豆鳥島では東邦大学の長谷川博の発案のもと、1992年から環境省の委託で山階鳥研がデコイによる新繁殖地の形成を行ってきました。1995年には1羽、2005年1月には4羽のヒナが孵化して、鳥島初寝崎の新繁殖地でのヒナの数は徐々に増えました。2006年には二桁のヒナが巣立ったことから、ついに従来の燕崎繁殖地とは別に新たな繁殖地が島内にできたのです。

クロアシアホウドリ

図1. アホウドリが繁殖していた島。明治時代の濫獲以前には現在の2カ所(緑色の星印)以外にも北西太平洋の各地(赤丸)に繁殖地があった(長谷川.1995等を参考に作成)


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ふたつの繁殖地が抱える問題点

伊豆鳥島と尖閣諸島という二つの繁殖地のうち、鳥島のほうがずっと大きく、長谷川の推定によれば2004年5月時点で、約1655個体が生息していました。両繁殖地にはそれぞれ、保全上の問題点があります。

伊豆鳥島は火山島であるため、噴火の危険と隣り合わせであることが最大の問題点です。繁殖期に大噴火が起こった場合には繁殖集団の半数近くが失われる危険性があると指摘されています。一方、尖閣諸島は現状調査が難しく、保護活動もできないのが実情です。こうした現在の繁殖地の背景から、関係者の間では本種のいっそう確実な回復のために三番目の繁殖地をつくることの重要性が従来から言われていました(長谷川. 1990)。


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第三の繁殖地を小笠原に

2000年にアホウドリがアメリカ合衆国で絶滅危惧種に指定され、アホウドリ回復計画の策定が義務づけられました。アメリカ政府の鳥獣保護担当者は、山階鳥研を含む世界のアホウドリ関係者を集めて、アホウドリ回復チーム(※コラム参照)を組織し、協議を続けました。その結果、2005年に小笠原諸島の聟島(むこじま)列島で第三の繁殖地を形成させるプロジェクトを行うことが決まりました。

聟島列島は、最大の繁殖地である伊豆鳥島から南南東に約350キロの場所にあります。ここに繁殖地を作らせる理由は次のようなものです。まず、聟島列島は、明治時代の濫獲以前のアホウドリの繁殖地のひとつであり、現在少数のアホウドリの飛来が確認されていること。火山噴火のおそれがないこと。鳥島から人為的に雛を移動して巣立たせることも視野に入れたときには、距離の面から実施が比較的容易で対応しやすいこと。活動拠点や物資の調達基地として小笠原諸島の中心地である父島が使えることなどです。


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アホウドリ回復チーム

非繁殖期のアホウドリが分布するベーリング海・アラスカ湾では、オヒョウ、タラ、ギンダラを対象とする底はえ縄漁業(先端に釣り針のある枝縄がたくさん取り付けられた1本の幹縄を重りで海底近くまで沈め、底付近に生息する魚を狙う漁法)が盛んに行われている。多くの海鳥が集まるこの海域では餌に食らいついてしまった彼らが混獲(魚と一緒に誤って漁獲すること)される事故が多発しており、アラスカ湾における海鳥の混獲数は年間4,000-26,000羽と言われている。当然ながらこの中にはアホウドリも含まれており、1993-2004年の間の混獲数は計12羽であったと推定されている。今後もアホウドリの混獲は十分起こりうるという判断から、米国政府は2000年に本種を絶滅危惧種に指定した。

米国では、絶滅危惧種の混獲に対する規制はとても厳しく、底はえ縄漁業によるアホウドリの混獲数が2年間で4羽を超えた場合、漁場を閉鎖するという決定が下った。また、米国の絶滅危惧種法は対象種の具体的な回復計画の作成も義務づけている。そこで、米国魚類野生生物局が中心となって、米国、日本、豪州の研究者、行政関係者からなる「アホウドリ回復チーム」が組織された。

アホウドリ回復チームは2004年までに3度の会議を開き、回復計画の具体的内容について議論を重ね、アホウドリを絶滅危惧種の指定から解除する最終目標として以下の三つの基準を定めた。一つめは1,000つがい以上が3つの異なる地域で繁殖すること、二つめは250つがい以上が伊豆鳥島以外で繁殖し、そのうち25つがいが尖閣諸島以外で繁殖すること、最後は3つの繁殖地の個体数が年率6%以上で増加することである。

この回復計画は2005年10月に草案が完成し、その後募集したパブリックコメントをもとに、2008年9月に完成した。山階鳥研の尾崎副所長、出口研究員が作成に携わったこの計画には、漁具の改良、アホウドリの採餌海域の特定、伊豆鳥島と尖閣諸島の繁殖状況の継続調査などを行うことが組み込まれ、中でも、最も重要な項目として位置づけられた第三の繁殖地の形成は、山階鳥類研究所が米国政府と日本の環境省の協力を得ながら取り組むことが決まった。


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誘致の方法~雛の移動・人工飼育も

鳥島初寝崎で有効性が実証された、アホウドリの実物大の模型であるデコイとアホウドリの音声による誘引を、聟島列島でも行います。しかし、同じ鳥島の中の別な場所に繁殖地を作るだけでも15年近くを要したこの方法は、350キロ離れた場所への誘引に素早い効果は期待できません。

そこで新たな手法として検討されたのが、鳥島で孵化した雛を移動して聟島列島で巣立ちさせる方法です。アホウドリ類は、育った場所を記憶しており、数年後に成熟して繁殖地を探すときには、巣立った場所に戻ってくると考えられます。雛を一定期間新しい場所で人工的に飼育して巣立たせることで、できるだけ短期間で将来その場所で繁殖するアホウドリを増やそうというわけです。

雛の人工飼育を無人島でおこなうためには餌を保管する冷凍庫、飼育スタッフ用に最小限度の居住スペースなどが必要になり、十分な検討と準備が必要です。また雛の移動については、いきなりアホウドリで行うのではなく、絶滅の危険の少ない近縁種のコアホウドリやクロアシアホウドリでまずテストをすることが検討されました。

プロジェクトを実際に行う場所ですが、聟島列島は現在人間が居住しておらず、海鳥の繁殖地となっている場所も多く、いくつかの候補地が考えられました。過去および現在のアホウドリ類の生息状況や、物資輸送のための船舶の接岸の容易さや居住施設を設置する容易さなどいくつかの基準に照らして候補地を選ぶ必要があります。有力な候補地として検討されたのは、嫁島、媒島(なこうどじま)、聟島の3カ所でした。


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欠かせない地元の理解と協力

小笠原諸島は国立公園であり、キャンプの禁止や場所によっては人工建造物の設置の禁止をはじめとする各種の保護上の規制があります。固有の生物を外来種から守るために、島から島への資材の運搬にも厳しいチェックが要求されています。また聟島列島の植生は外来種などの影響を著しく受けており、林野庁や東京都が中心となって植生を回復させる事業が進められています。観光や漁業といった産業への配慮も必要です。

このため、法律や規則上の問題点をクリアしながら、地元の行政、水産、観光、自然保護等の関係者と十分な意志疎通をはかりながらプロジェクトを推進していくこととなりました。

聟島列島には近縁種のクロアシアホウドリの繁殖地もある(2005年3月嫁島にて)


候補地のひとつ聟島北西部の平坦地


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事前準備

2005年3月には、山階鳥研の出口研究員が、長谷川博(東邦大学教授)とともに小笠原諸島を現地調査して、誘致の候補地を聟島(むこじま)北西部に絞り込みました。その後、いろいろな生物分類群の専門家による環境影響評価が行われ、プロジェクトの実施に大きな問題点はないという結論が出されました。また、自然環境の保全意識の高い地元の皆様の理解を得るために、父島と母島で数回の説明会を環境省と共同で開催しました。

これらの準備をへて、2006年10月、聟島北西部の現地に、アホウドリのデコイ30体を設置しました。

移送したヒナの人工飼育については、問題点洗い出しのために近縁の種による模擬実験を行いました。まず、2006年3月から7月にかけて、ハワイ諸島のカウアイ島でコアホウドリのヒナの飼育実験を行いました。これは、ミッドウエイ島から運ばれた10羽のヒナを野外で人工飼育したもので、4羽が巣立ちに成功しました。しかし、残りの6羽のうち5羽は感染症や悪天候などで死亡し、1羽は飛べずにモントレー水族館で飼育中です(※1)。

次に、この時の問題点と反省点を踏まえて、2007年3月から6月にかけて、小笠原諸島でクロアシアホウドリの飼育実験を行いました。媒島(なこうどじま)から聟島へ10羽のヒナを運んで人工飼育した結果、9羽を無事巣立たせることができました。そして、野生の親鳥に育てられているヒナとの比較で、体サイズの複数の指標で成長に差がなく、巣立ち時の体重はむしろ飼育個体がやや重いという好結果を得ました(※2)。

これらの結果をもとに、2007年9月に環境省の「野生生物保護対策検討会アホウドリ保護増殖分科会」の了承をえて、2008年2月に鳥島の燕崎繁殖地から約40日齢のヒナ10羽をヘリコプターで移送し、聟島で人工飼育することが決まりました。

アホウドリは、これまで飼育実験を行ってきたコアホウドリやクロアシアホウドリに比べて1.5倍以上に大きくなり、人間に対する警戒心も強い鳥ですので、より一層の注意が必要です。研究員らは飼育の成功めざしさらなる努力を続けました。

(※1)コアホウドリ飼育実験の内容は2008年3月発行の山階鳥類学雑誌39巻2号に詳しく書かれています。

(※2)クロアシアホウドリ飼育実験については2012年発行の Bird Conservation International 誌掲載の論文(Deguchi et al. 2012.)に書かれています。


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鳥島から聟島へヒナを移送

ヒナをいつ運ぶか

聟島で人工飼育するにあたり、どのくらい若いヒナを鳥島から運ぶべきかが、慎重に検討されました。なぜなら、運ぶ時期が早すぎると人間に対する「親子間の刷り込み」(filial imprinting)が生じ、それが繁殖に悪影響を及ぼす「性的な刷り込み」(sexual imprinting)に至る可能性があるからです。しかし逆に、運ぶ時期が遅すぎると、「場所に対する刷り込み」 (site imprinting)の時期から遅れてしまい、繁殖年齢に達した際に、自身が育った聟島ではなく、生まれた伊豆鳥島を営巣地に選ぶ可能性が高くなってしまうのです。

アホウドリ科の鳥類は、ヒナが約1ヶ月齢になるまで片親が常時そばに付き添っており、その後はヒナを残して両親とも数日間の採餌へ出かけ、ヒナのそばで過ごす時間は格段に短くなるという繁殖特性を持ちます。

1960年代、当時まだ軍用地だったミッドウェイ環礁では、数十万番いのコアホウドリが繁殖し、離発着する軍用機に衝突する事故が起きていました。この事故を防ぐ目的で、1ヶ月齢(97羽)と5.5ヶ月齢(991羽)のコアホウドリのヒナを誕生地の島から5km離れた島の他個体の巣に移す実験が行われました。その結果、1ヶ月齢で移して無事巣立った雛の35%は、求愛行動を始める3年後に移送先の島で確認され、誕生地に戻った個体はいませんでした。一方、巣立ち間際の5.5か月齢で移した雛の中で3年後に移送先の島で確認された個体は5%で、誕生地に戻った個体は13%でした。しかも、繁殖齢に達する7年後には、移送先で確認された個体はわずか0.2%で、誕生地に戻った個体は26%にもなりました。

これらの情報をもとに、自身の種認識および帰還場所が確立される時期を推測し、アホウドリはヒナが1ヶ月齢となる2月に鳥島から運ぶことが妥当と考えました。

ヒナをヘリコプターで350km運ぶ

ヒナを移送する方法についても慎重に検討されました。移送にかかる時間が長引くと、そのストレスが雛の生理状態を著しく悪化させ、その後の生存率を下げる恐れがあります。そこで、約350kmの鳥島ー聟島間の移送(1.5時間)にはヘリコプターを使うことになりました。

ヒナを運ぶための箱、ヘリコプター発着場所までの移動ルート、移送中の管理など様々な事について数ヶ月かけて検討され、シュミレーションと予行演習が重ねられ、実行に移されました。

鳥島燕崎の繁殖地は崖の斜面にあります。事前に用意した箱にヒナを移し、一人あたり2羽ずつ(箱も入れて約15キロ!)を担いで標高差150メートルを登らなくてはなりません。生まれて1ヶ月くらいのアホウドリは、体重が重いのに骨がもろく不安定で、傾きや衝撃、揺れにとても弱く、ダメージをできるだけ避けるため、事前に準備しておいた新しいルートを慎重に進みました。

写真鳥島でのヒナの運搬

鳥島の燕崎繁殖地から標高差約150mの崖を背負い上げてヘリコプターに積み込んだ。このために事前に新たなルートを作り、ヒナの入ったのと同じ重さの箱を背負っての予行演習も行った。

ヘリコプターには調査員が同乗してヒナの様子を見守り温度管理なども行います。約1時間半の飛行ののち、聟島で待ち構える出口研究員らに迎えられたヒナは、翌日から早速給餌を受けました。鳥島からヘリコプターに同乗し、聟島でヒナの飼育にも携わった渡辺ユキさんの談話をご紹介します。

ヒナの移送に携わって

渡辺ユキ(阿寒国際ツルセンター・獣医師)

輸送中のヒナを見守る渡辺ユキさん写真調査員兼獣医師として移送の全行程に同行する機会を得ました。ヒナは体重が5キロ近くもあります。重い体で骨格がまだとても軟らかく、骨折を起こすことも考えられるので、とても気を使い緊張しました。

移送用の箱については山階鳥研の佐藤文男さん(研究員)達と何ヶ月もかけて検討し、ヘリコプターへの積み方も入念に打ち合わせをしました。候補となるヒナは、体の大きさ、両親からの給餌状況等も考慮して10羽を選別しました。健康で、体の大きさがほぼそろっていることが、聟島での飼育成功にとって重要な点だと考えたからです。

また移送当日のヒナを直接取り扱う作業は私が担当しました。移送先では、ヒナの状態が落ち着くまで一週間滞在してケアーを行いました。皆で検討した方法で、10羽とも健康な状態で運ぶことができ、責任を果たせてたいへんほっとしています(談)。

写真聟島到着

聟島に到着してヒナの入った箱をヘリコプターから下ろす出口研究員


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ヒナの給餌

聟島へ到着したヒナには翌日から給餌が始まりました。クロアシアホウドリでの飼育実験と同様に衛生管理には十分配慮しながら、トビウオ、マイワシ、スルメイカ、オキアミなどの餌を与えます。

消化不良をおこさないように、始めの約1ヶ月間はフードプロセッサーでピューレ状にして与え、その後は、切り身・丸ままの餌に徐々に慣らしていきました。これらの餌の量や配合は、近縁種から推定した1日当たりの代謝エネルギー量(200kcal/体重kg)を目安とし、飼育中の雛の成長速度と鳥島で得られたデータから推定した成長速度を比較しながら調節しました。また、脱水症を防ぐために餌とは別に1日300-400mlの水も与えました。

図2. アホウドリ移住計画の流れ。鳥島から移送し、聟島で飼育したアホウドリが巣立った後移動経路を追う。慎重に検討された計画に基づいてプロジェクトは実行された。


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聟島での飼育と巣立ち結果

このように2008年には10羽、2009-2012年には15羽ずつ、計70羽を移送しました。計5年のいずれの年においても、人手による約100日間の野外飼育を経て、計70羽中69羽が順調に育ち、無事巣立ちをしました。この飼育結果は鳥島の野生個体の繁殖成功率とほぼ同等です。

また、初期段階の成果を測る基準として、巣立ち前の雛の体サイズと血中成分値を測定し、装着した衛星発信器から得た巣立ち後の生存率と移動行動のデータを得て、それらの値を人工飼育した雛と鳥島の野生雛の間で比較しました。その結果、人工飼育したヒナは、いずれの基準においても野生のヒナと同等以上であることが示されました(図3)。

加えて、人への「刷り込み」が生じていないか案じていましたが、ヒナが調査員になつくことはなく、数羽の雛は空腹時になると、飼育地に設置するデコイへしきりに餌乞いするという、関係者を安心させる行動も見られました。

ヒナ巣立ち後の分布図

図3. 衛星発信器を装着した飼育雛(n=31) と野生雛(n=31) の巣立ち後の分布海域(Deguchi et al. 2014の改変)。黄色の線(Mukojima hand-reared)および赤色の線(Torishima naturally-reared)で囲まれた部分は、飼育雛および野生雛がよく利用した海域(位置数の上位50%が現れた海域)を示し、水色(All birds)の部分はごくまれな出現場所を除いた利用海域(全体の上位95% が現れた海域)を示す。


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事後モニタリング

欠かせないモニタリング

個体を人為的に導入することによって繁殖地を復元・創成する試みは、野生動物の保全に有効な手段と半ば盲目的に信じられてきました。そのため、この試みの実施例は、市民活動としての普及も相まって急速に増えています。しかし、その成果の評価に不可欠な事後調査の結果報告は、導入例に比べて極めて少ないのが実状です。そのため、山階鳥類研究所の研究員らはアホウドリの飛来・繁殖状況について現在も継続して調べています。

飼育個体の帰還

聟島を巣立った飼育個体は、初移送の3年後から聟島に帰還をし始めました。2016年までの結果をまとめると、8年後までの間に全体の39%(27羽)が確認されたが、そのうち67%(18羽)は鳥島でも確認されました。飼育個体の出現頻度は、いずれの年においても、聟島(平均:0.3-2.3羽/日)より伊豆鳥島(0.4-3.5羽/日)の方が高い値を示しました(図4)。

聟島巣立ちヒナ飛来数

図4. 聟島および鳥島で確認されたアホウドリ飼育個体の日当り飛来数(Deguchi et al. online earlyの改変)。棒グラフは平均値、エラーバーは標準偏差を示す。

飼育個体の繁殖

一方、飼育個体の繁殖は、初移送の5年後から始まり、8年後までの間に聟島および近隣の媒島(なこうどじま、聟島から7km南)では少なくとも2番い(計2雛誕生)、鳥島では5番い(計9雛誕生)が確認されました。飼育個体の番い相手はいずれも野生個体であり、聟島は尖閣諸島由来の個体、媒島は鳥島由来の個体が番い相手でした。

さらに、初移送の8年後には、嫁島(聟島から22km南)でもアホウドリの雛1羽(親個体は未確認)が確認されました。聟島での繁殖はデコイと音声装置によるアホウドリの集団繁殖地を模した環境で行われたが、媒島での繁殖は近縁ながらも別種のクロアシアホウドリの集団繁殖地で行われたのです。(図5)

小笠原繁殖状況一覧

図5. 聟島および周辺の島におけるアホウドリの繁殖状況

写真ヒナ

親鳥(足環番号Y01)の腹の下にヒナが見える。円内はヒナの拡大。Y01は2008年に鳥島から移送され聟島から巣立ったオス。2016年1月9日小笠原諸島聟島(山階鳥研撮影・東京都提供)

聟島を巣立った個体の飛来・繁殖状況がいずれも伊豆鳥島の方が高かった結果は、成育地の刷り込みよりも、出生地の刷り込みや、同種集団がもたらす社会的誘引の強さ(鳥島のアホウドリ:750番い)が、アホウドリの繁殖地形成により重要な役割を果たすことを示唆しています。とはいえ、同種がほとんどいない場所でも繁殖は始まっており、近縁種集団(媒島・嫁島のクロアシアホウドリ:ともに400-500番い)もまた大きな効果を持つと言えるでしょう。


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小笠原諸島の繁殖地が80年ぶりに復活

このように現段階では、出生地である伊豆鳥島に戻って繁殖を行う飼育個体の方が多い状況となってはいます。それでも、小笠原諸島における80年ぶりのヒナが誕生し、繁殖地が復活したことは、再導入プロジェクトがもたらした貴重な成果です。

また、本プロジェクトは、地球温暖化にともなう海面上昇などによって繁殖地消失の危機を抱える他のアホウドリ科鳥類にとっても、重要なロールモデルとなるに違いありません。

山階鳥研では、アホウドリの更なる回復と安定のため、各方面からのご支援を受けながら、今後もモニタリングなどの保護活動を続けていきます。

* 本プロジェクトは山階鳥研が、環境省、東京都、米国魚類野生生物局、三井物産環境基金、公益信託サントリー世界愛鳥基金、朝日新聞社等の支援を得て進めています。


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2008年~2012年に実施した小笠原群島へのアホウドリ再導入の飼育結果とその後のアホウドリ関連情報を時系列にリスト化した →アホウドリ最新情報ページも合わせてご覧ください。

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