2023年8月17日掲載
2023年2〜3月にかけて、伊豆諸島鳥島のアホウドリの調査を、環境省の委託事業として行った結果、鳥島全体でのアホウドリのヒナ数が、1951年のアホウドリの再発見以来、初めて1,000羽を越えました。また、小笠原諸島聟島におけるアホウドリの新繁殖地形成事業において、東京都の委託による山階鳥研の調査の結果、昨年に引き続き2羽のヒナの孵化が確認され、5月には巣立ったものと推測されています。
富田直樹研究員ほかの現地調査チームが、2023年2月18日〜3月7日の日程で鳥島に渡り、アホウドリ繁殖状況モニタリングおよび標識調査を実施しました。
その結果、南東部の急斜面にある従来からのコロニー(集団繁殖地)の燕崎、西部の草の生えた緩斜面にデコイ等の誘引装置を置いて形成されたコロニーの初寝崎(はつねざき)、燕崎の西側に位置する礫地で2006年より自然に形成された子持山でそれぞれ430羽、537羽、121羽のヒナが確認されました。いずれのコロニーでもヒナ数は過去最多で、総個体数は昨年より89羽(8.9%)増加し、1,088羽となり、一つの繁殖期でのヒナ数が、1951年のアホウドリの再発見以来、初めて1,000羽を越えました。
今期の、ヒナ数、繁殖つがい数、非繁殖個体数から鳥島のアホウドリの総個体数を推定するとおおむね7,900羽以上まで回復したと評価できます。
2022年11月23〜29日、2023年1月14〜19日、3月5〜12日に東京都小笠原支庁の委託事業として、油田照秋研究員ほかの現地調査チームが聟島(むこじま)に渡り、飛来状況等のモニタリングと標識調査を行いました。
その結果、新繁殖地では、昨年に引き続き2羽のヒナの孵化が確認されました。繁殖したのは、2016年に巣立った第2世代個体(オス、足環番号赤色Y75、7歳、愛称:みらい)と野生個体(メス、足環なし)のつがいと、2017年に巣立った第2世代個体(オス、足環番号赤色Y76、6歳)と2010年に巣立った移送飼育個体(メス、足環番号赤色Y31、13歳)でした。前者のつがいは2年連続して2度目の繁殖、後者のつがいは初めての繁殖でした。2022年11月の調査では、3つがいの営巣と抱卵行動が観察されていましたが、上記2つがい以外の1つがいはその後抱卵を中止し、ヒナは孵化しませんでした。
2羽のヒナは4月にも順調に生育しているのを確認しており、5月中に巣立ったと考えられます。鳥島では個体数が順調に増加しています。一方、聟島の新繁殖地では2つがいが繁殖していますが、繁殖地の確立まではまだ時間が必要です。さらに、近年、尖閣諸島のアホウドリは鳥島のアホウドリと別種で、それぞれの独自性を保つように保全する必要があることが判明し、アホウドリはこれまで考えられてきたより希少な種となることから、引き続き動向をモニタリングする必要があります(山階鳥研NEWS 2021年3月号参照)。
(注)小笠原諸島聟島での新繁殖地形成事業は、山階鳥研が、環境省、東京都、米国魚類野生生物局、三井物産環境基金、公益信託サントリー世界愛鳥基金等の支援を得て、国の特別天然記念物であり絶滅危惧種であるアホウドリの保全のため、小笠原諸島聟島に新しい繁殖地を形成する目的で、伊豆諸島鳥島のヒナの移送(2008〜2012年)と音声とデコイによる誘引(2007〜2022年)をし、モニタリング調査を実施しているものです。