2015年5月27日掲載
尾崎清明副所長と研究協力者の渡久地豊さんは、ニュージーランドの飛べない希少クイナ、ニュージーランドクイナ(現地名ウェカ)の人工飼育と野生復帰について情報収集のため、2014年秋にニュージーランドを訪問しました。渡久地さんにその模様を報告してもらいます。これは、環境省の環境研究総合推進費「再導入による希少鳥類の保全手法の確立に関する研究」の一環として実施されたものです。
(山階鳥研ニュース 2015年5月号より)
山階鳥研 標識調査協力調査員 渡久地豊
沖縄島固有種のヤンバルクイナが発見されてから今年で34年が経ちます。私は、これまでにこの鳥のいくつかの調査研究に携わってきました。調査結果から1985年の推定個体数約1,800羽が、2010年には約1,000羽に減っていることが分かりました。この原因は、外来種のフイリマングースなどの捕食によるもので、マングースの防除事業の進展とともに、現在では少しずつ個体数が回復傾向にあります。しかしながら、危機的状況は続いており、環境省が中心となりヤンバルクイナ保護増殖事業の一環として、本種の飼育下繁殖と飼育繁殖個体の野生復帰試験が進められています。
世界に目を向けるとニュージーランドでは、ヤンバルクイナ同様固有種の飛べないクイナのウェカが、生息環境の改変やオコジョなど外来哺乳類の影響で個体数を減らしたため、飼育下で繁殖した個体をすでに野生復帰させています(減少要因の主要なものは生息環境改変で、次いで外来種)。昨年の秋、山階鳥類研究所副所長尾崎清明氏の研究協力者としてニュージーランドの視察に同行しました。ニュージーランドは、北島と南島の二つが主要な島です。北島ではカワカワベイやカワウ島をウェカの研究者ビーチャム氏に、南島ではアベルタスマン国立公園のトタラヌイキャンプグランドを元WWF香港会長メルビル氏に野生復帰の現場を案内していただきました。
初めて見るウェカの印象は、その大きさと長めの尾羽からどちらかといえばコジュケイのようなキジの仲間を連想しました。でもよく見るとクイナ特有の嘴の形や歩き方をしており、風切羽の地味な色合いの模様はヤンバルクイナと似ていました。鳴き声はウェッカウェッカ・・・とよく響き、時々ケッ!と発する警戒の声はヤンバルクイナと同じで、しばしば北限と南限の飛べないクイナが重なって見えることがありました。
ウェカの野生復帰が成功している背景には徹底した外来種の駆除がありました。やんばる(沖縄島北部の森林地帯、ヤンバルクイナの生息地)でも外来種の駆除が実施され成果が表れてきてはいますがまだ途上にあります。
今回ニュージーランドを訪ねて外来種の駆除だけではなく、やんばるにはない何かを感じました。ニュージーランドは入植当時と比べかなりの森林が伐採され広大な牧場などに変わっています。絶滅した種も少なからずありました。今では国内の各所に広大な国立公園があり保全がなされています。また、車で移動していて道路にゴミがほとんどなく、環境への意識がとても高い美しい国でした。国立公園内には環境について学べる部屋が完備され、子供たちが野生生物の専門官から環境について教わるそうです。野生復帰の成功に繋がる礎のようなものがそこにはあるのではないでしょうか。
現在やんばるでも国立公園の新規指定に向けた調整が行われています。ウェカを訪ねて気づいたことをやんばるでも活かしていければと思いました。
(文・写真 とぐち・ゆたか)